Journal of Epidemiology

キービジュアル

日本語抄録

 

Vol.15-4

日本における疫学研究倫理指針:その成立の歴史
Japan’s Ethical Guidelines for Epidemiologic Research: A history of their development.

中山健夫(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野)、酒井未知、ブライアン・テラー・スリングスビー 1990年代後半から、日本の医療専門家や政策決定者において「根拠に基づく」アプローチの意義が広く認識されるようになった。同時に研究に参加する対象者や個人情報の保護に関する社会的な関心が高まりを見せた。根拠に基づくアプローチの必要性が知られることで疫学研究は推進されたが、個人情報保護に関する規制は疫学研究に制限的な影響を与えることになった。この社会的葛藤を調和させるために2000年4月に厚生省(当時)の玉腰班が疫学研究の倫理指針案を提示した。その後、厚生省研究班や委員会による海外情報の収集・検討、マスメディアの報道、日本学術会議や日本疫学会による声明発表など経て、厚生労働省と文部科学省による疫学研究倫理指針の合同作成委員会の発足に至った。合同委員会の検討により2002年6月には倫理指針が発表された(その後2004年に改定)。これに加えて日本疫学会も2002年10月に「疫学研究を実施するにあたっての倫理指針」を発表した。これらの研究倫理指針の作成は、日本の疫学者のとって大きな試練であったが、同時に疫学に関わる研究者が、自身の社会における役割について理解を深める貴重な機会となったとも言える。このレビューでは、研究倫理指針の成立過程を概観することで、疫学者と一般社会との関係、その交互作用についての考察を深めることを目的とする。
キーワード:疫学、倫理、指針、情報マネジメント、インフォームド・コンセント
(P107~112)

日本におけるChronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD)への年齢と喫煙の影響
Effects of Smoking and Age on Chronic Obstructive Pulmonary Disease in Japan

小島重子(藤田保健衛生大学医学部衛生学教室)、榊原博樹、茂谷真一、廣瀬邦彦、水野文雄、伊藤 圓、橋本修二
背景:The Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD)は、COPDの国際診断基準としてスパイロメトリー(一秒率<70%)を推奨しているが、その基準を用いたCOPDリスク要因の報告はわずかである。我々は、この診断基準の下で日本におけるCOPDへの年齢と喫煙の影響を評価した。
方法:愛知県豊田地域医療センターの人間ドック受診者のうち、COPD以外の気流制限を来しうる疾患患者及び既往者を除外した25~74歳の11,460人を対象とした。対象者は、non、former、current smokersに分類し、current smokersはBrinkman Index (BI)<400、400-799、800+に分類した。年齢の影響は、男女別にnon-smokersについてlogistic regression analysisで、喫煙の影響はO/E比(COPD数/非喫煙時COPD予測数)で解析した。
結果:男性COPDは年齢と共に有意に増加し、former、current smokersのO/E比はnon-smokersより有意に高かった。Current smokersのBI<400、400-799、800+のO/E比(95%信頼区間)は、各々3.10(2.00-4.81)、2.78(2.05-3.73)、4.76(3.65-6.19)であった。女性Current smokersのBI<400、400-799のO/E比もnon-smokersより有意に高かった。
結論:年齢と喫煙は、GOLDの国際診断基準の下でCOPDの強いリスク要因であることが示された。
キーワード:The Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease、肺疾患、慢性閉塞性、喫煙、年齢要因
(P113~117)

緑茶と大腸がん罹患リスクに関する研究:日本における2つの前向きコホート研究の統合分析
Green Tea and the Risk of Colorectal Cancer: Pooled Analysis of Two Prospective Studies in Japan

鈴木寿則(東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野)、坪野吉孝、小泉弥生、鈴木洋子、渋谷大助、辻一郎
背景:これまでの実験で緑茶のがん予防効果が示唆されており、いくつかの前向きコホート研究が行われてきた。
方法:日本北部の宮城県において、一般地域住民を対象とした2つの前向きコホート研究の統合分析を行った。第1の研究は1994年に開始し26,311人を対象者とした。第2の研究は1990年に開始し39,604人を対象者とした。対象者は緑茶摂取の項目を含む自記式調査票に回答した者である。7年から9年間追跡し、地域がん登録との記録照合により結腸がん305例、直腸がん221例を把握した。Cox比例ハザードモデルを用いて、交絡を補正し、緑茶摂取による大腸がんのハザード比を解析した。そして、それぞれのコホートから得られた偏回帰係数を、誤差分散の逆数を重みとして加重平均する方法により統合した。
結果:結腸がんについて、緑茶摂取が1日1杯未満に対する多変量補正ハザード比は、1-2杯、3-4杯、5杯以上で、それぞれ1.06(95%信頼区間=0.74-1.52)、1.10(0.78-1.55)、0.97(0.70-1.35)(傾向性のp値=0.81)であった。同様に、直腸がんのハザード比は、それぞれ0.85(95%信頼区間=0.56-1.29)、0.70(0.45-1.08)、0.85(0.58-1.23)(傾向性のp値=0.31)であった。
結論:緑茶摂取は大腸がん罹患のリスク低下との関連が認められなかった。
キーワード:緑茶、大腸がん、前向きコホート研究、日本
(P118~124)

1980年厚生省循環器疾患基礎調査受診者の心電図所見と19年間追跡結果の死亡の関連についてのコホート研究 (略称:NIPPON DATA80)
A Nineteen-Year Cohort Study on the Relationship of Electrocardiographic Findings to All Cause Mortality Among Subjects in The National Survey on Circulatory Disorders, NIPPON DATA80.

堀部 博(愛知医科大学)、笠置文善、加賀谷みえ子、松谷康子、岡山 明、上島弘嗣、NIPPON DATA80研究班、1980年循環器疾患基礎調査心電図コード作業班
背景: 心電図は日常診療および健康診断のためのもっとも普及した手段の一つで、日本国民の健康状態を知る循環器疾患基礎調査にも用いられてきた。この全国標本を用いて、心電図異常を有する方々の死亡を予測せんとするものである。 方法: 1980年循環器疾患基礎調査の受診者9,638人について記録した心電図所見をミネソタコードで分類した。その後19年間の死亡との関連を、性、年齢、収縮期血圧、血糖、喫煙習慣で調節したコックス比例ハザード模型を用いて検討した。
結果: 異常Q・QS所見を有する者は、主な心電図所見を持たない者に比べて、ミネソタコード1-1は3.71,コード1-3は1.57という有意に高い死亡ハザード比(注参照)を示した。軸変異コード2-1は1.37,コード2-5は4.16、左R波増高コード3-1は1.34,コード3-3は1.35の死亡ハザード比を示した。ST下降コード4-1は2.59,コード4-3は1.63,T異常コード5-1は2.33,コード5-3は1.54の死亡ハザード比であった。Q・QS、ST,Tコードでは、ミネソタコードの2桁目の数字が低い方がより高いハザード比を示した。ST結合部下降コード4-4およびT低下コード5-4,5-5の死亡ハザード比は有意ではなかった。
結論: ミネソタコードでみた心電図所見は、他の主な危険因子を同時に考慮しても尚、死亡の危険を予見するのに役立ち、この結果は健康診断における心電図の有用性を示した。(注:死亡ハザード比1.5とは、死亡確率が5割増し)
キーワード: 心電図、ミネソタコード、疫学、コホート研究、死亡状況
(P125~134)

Relative Validity of a Short Food Frequency Questionnaire for Assessing Nutrient Intake versus Three-day Weighed Diet Records in Middle-aged Japanese

Yuko Tokudome, et al.
(P135~145)

Proteinuria is a Prognostic Marker for Cardiovascular Mortality: NIPPON DATA 80, 1980-1999

Shinichi Tanihara, et al.
(P146~153)

 
Share