Journal of Epidemiology

キービジュアル

日本語抄録

 

Vol.14-2

感染症発生動向調査による感染症流行に対する警報・注意報発生法の評価
Evaluation of a Method for Issuing Warnings Pre-epidemics and Epidemics in Japan by Infectious Diseases Surveillance.

村上義孝(国立環境研究所環境健康研究領域疫学・国際保健研究室)、橋本修二、谷口清洲、小坂健、渕上博司、永井正規
(P33-40)

背景:小地域を対象とした、感染症発生動向調査のデータを用いた感染症流行の警報・注意報発生の簡便な方法は開発されてきた。本方法では、感染症流行の警報は定点あたり報告数の値が規定された値を上回った場合に発生する。感染症流行の注意報は、その発生後4週間内に警報が発生する可能性を意味する。本方法は日本においてサーベイランスで日常的に使用されているにも関わらず、その妥当性の評価はされていない。

方法:1999-2001年度のインフルエンザおよび小児科対象12疾患の感染症発生動向調査データを解析に使用した。我々は警報の頻度、警報発生前後の指標(定点あたり報告数)の時間的推移、そして注意報については警報に対する感度、特異度、陽性反応的中度を検討した。

結果:研究対象の大部分の疾患では、警報が発生した週の割合が0%から10%の間であった。インフルエンザを含むいくつかの疾患では、警報前後において指標の値の急激な増加となだらかな減少が観察された。注意報の感度、特異度、陽性反応的中度はインフルエンザでは各々90.4%、93.7%、23.9%であった。小児科対象疾患(水痘、麻疹、風疹、流行性耳下腺炎)では感度、特異度、陽性反応的中度は各々25.1-54.2%、86.1-99.2%、2.5-20.8%であった。

結論:インフルエンザを含むいくつかの疾患で、警報発生を規定する方法は基準を満たしていた。またいくつかの他の疾患では改善の必要性が示唆された。

キーワード:感染症、サーベイランス、疾患流行、警報、評価研究

わが国におけるバイオテロに備えた天然痘ワクチン接種政策に関する数理疫学的研究:長期間持続するワクチン免疫の評価を中心に
Modeling for a Smallpox-vaccination Policy against Possible Bioterrorism in Japan: The Impact of Long-lasting Vaccinal Immunity

西浦博(マヒドン大学熱帯医学校)、I. Ming Tang
(P41-50)

背景:これまでに天然痘ウイルスが何処かで隠し持たれていることが指摘されている。われわれは詳細な疫学研究成果を基に数理モデルを開発することにより、わが国における天然痘発生時の様々なシナリオを分析し、さらに過去のワクチン接種に伴う持続免疫を考慮に入れた国家レベルのワクチン接種計画に関する最も効率的な方法を提示することを試みた。

方法:天然痘流行に関する疫学的趨勢およびその制圧戦略の評価を可能とする特徴を有した決定論的モデルを用いて分析を実施した。必要とされるワクチン備蓄量を算出するために、長期間持続したワクチン免疫を考慮に入れて仮説的な個体群が集団免疫を得るための条件について数理的解析を実施した。

結果:過去のワクチンに伴う持続免疫の程度によって、起こり得る流行の規模は大きく影響されることが示された。また、免疫の状態によって国家レベルの最も適切な(理論的)分配法が明らかとなった。シミュレーションでは流行50日目の有病率は持続免疫が実際にある場合とない場合で405倍もの差を認め、必要とされるワクチン接種量の試算では公平な分配法は理論的なそれよりも3.13倍のワクチンを必要とすることが示された。

結論:公平な分配法よりも非常に少ないワクチン接種量で済むことが期待される実際の免疫状態を基にすれば、開発された数理モデルは実践的なワクチン接種の優先度を決定する為に役立つと考えられた。その為、疫学研究によってわが国における天然痘に対する持続免疫状態を調査することは重要であると考えられた。

キーワード:天然痘、バイオテロリズム、数理モデル、ワクチン、免疫

Potential Errors Resulting from Sex and Age Difference in Assessing Family History of Coronary Heart Disease.

Tomohiro Saito, et al.
(P51-56)

前高血圧が日本人の冠動脈硬化に及ぼす影響
Role of Prehypertension in the Development of Coronary Atherosclerosis in Japan.

鷲尾昌一(九州大学大学院医学研究院予防医学分野)、徳永章二、吉益光一、児玉寛子、Ying Liu、笹月静、田中恵太郎、古野純典、毛利正博、竹下彰、荒川規矩男、出石宗仁、仁位隆信、白井和之、荒井英和、土居寿孝、河野知記、中垣修、高田和幸、冷牟田浩司、小柳左門
(P57-62)

背景:高血圧は冠動脈疾患の重要な危険因子である。米国合同委員会のガイドライン(JNC7)は前高血圧の患者に生活習慣の改善や薬物治療を勧めたが、前高血圧が日本人において、冠動脈硬化のリスクを上昇させるのかどうかははっきりしていない。

方法: 1996年9月から1997年8月の期間に福岡大都市圏の5つの循環器内科において、冠動脈硬化疾患またはその疑いではじめて冠動脈造影をうけた30歳以上の患者705名(男性417名、女性288名)を対象に横断研究を行った。

結果:正常血圧の者に比べ、前高血圧の患者は他の要因を補正しても、冠動脈硬化のリスクは上昇していた。

結論:前高血圧は日本人においても治療が必要な重要な疾患である。

キーワード: 高血圧、冠動脈硬化、リスク、日本

Non-biochemical Risk Factors for Cardiovascular Disease in General Clinic-based Rural Population of Bangladesh.

M. Mostafa Zaman, et al.
(P63-68)

日本の若手疫学者は疫学の未来に何を期待しているか? ~日本疫学会「疫学の未来を語る若手の会」メーリングリストにおける意識調査~
What Expectations Do Young Japanese Epidemiologists Have for the Future of Epidemiology? A Questionnaire Survey of Members of the Young Epidemiologists Society for Discussing the Future of Epidemiology

小橋 元(北海道大学大学院医学研究科予防医学講座老年保健医学分野)、寶珠山 務、杉森裕樹、大木いずみ、門脇 崇、神田秀幸、大谷哲也、岩崎 基、内藤真理子、高尾総司
(P69-71)

日本疫学会(JEA)の自由集会「疫学の未来を語る若手の集い」(若手の集い)のメーリングリストを通じて、若手疫学者が「疫学の未来」に何を期待し、何を必要と考えているかについての意識調査を行った。2003年1月に、若手の集いのメーリングリスト登録者151人に、(1) あなたにとって疫学とは? (2) 疫学の未来(2010年を想定)は明るいと思うか? (3) 2010年に向けて世界の疫学界がすべきこと (4) 2010年に向けて日本疫学会がすべきこと (5) 2010年に向けて、若手の集いがすべきことを質問した。回答者数は30人(回収率は20%)であった。自分にとっての疫学の意味は、手段・道具・方法論が13人、趣味・生きがいが6人、学問が5人であった。疫学の未来に対する点数は、69.3点を平均(レンジは30-100点)として、28人が50点以上と回答した。採点理由はプラス面の理由として、評価の重要性の増大、政策からの期待、病因・病態の解明にも役立つなど、マイナス面の理由としては、実験生物学に比べて評価が低い、個人情報保護の逆風などであった。2010年に向けて世界の疫学界がすべきことは、社会のニーズに応える・成果を社会に還元し政策に生かすが5人、疫学の具体的イメージや必要性を社会に訴えるが4人、公衆衛生大学院・疫学専門家の養成、国際統一指標・データベース構築・インフラ整備がそれぞれ3人であった。2010年に向けてJEAが (1) 学会認定資格、(2) 新しい疫学研究手法の提案、(3) 自由集会、をすべきかどうかとその理由を回答してもらったところ、全体として見ると、学会認定資格は10人(33%)、新しい疫学研究手法の提案は14人(47%)、自由集会は12人(40%)が必要と回答した。学会認定資格と自由集会については、疫学会会員歴5年以下の群に比べて、6年以上の群において必要と考える者の頻度がそれぞれ高い傾向を示した(46% vs. 24%、54% vs. 29%)。学会認定資格を必要とした理由は、研修目標の明示や専門医的認定による学会および疫学者のアイデンティティー確立に必要、一方、不要とした理由は、学会の資金集めや単なる研修会への出席証明書集めに終わりそう、自由な研究を阻害する可能性がある、などであった。新しい疫学研究手法に関しては、将来予測や多変量解析以外のものが必要とされた一方で、それは学会ではなく個人レベルでやるべきとの意見もあった。また、2010年に向けてJEAは、臨床などの他学会に疫学者が進出して疫学研究の魅力を示すべきという提案もあった。2010年に向けて若手の集いがすべきことは、若手人材の発掘、他分野との交流、ネットワーク、自由な議論、具体的行動、疫学会や疫学研究者に元気を与えることなどがあげられた。今回のアンケートの回収率は20%と低いが、疫学の未来に対する意識が高い集団からの意見を収集できた可能性が高い。今回の結果が、今後の若手の会、さらには日本疫学会の活動のさらなる活性化に寄与すれば幸いである。

キーワード:疫学、未来、メーリングリスト、アンケート

 
Share