Journal of Epidemiology

キービジュアル

日本語抄録

 

Vol.22-2

日本人妊婦における出生時体重に影響を及ぼす母の喫煙と葉酸代謝酵素遺伝子多型との関連

イーラ タマ アヨ(北海道大学大学院医学研究科公衆衛生学分野)、佐々木成子、ブライモー チチローラ セリファト、樫野いく子、小林澄貴、馬場俊明、水上尚典、遠藤俊明、千石一雄、吉岡英治、岸玲子

【背景】喫煙あるいは葉酸代謝に関与する遺伝子5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)C677TのTT型は血清葉酸値低下と関連することが示唆されている。5,10-MTHFR C677Tおよび A1298C遺伝子多型を解析して、妊娠中の喫煙と母の遺伝要因が血清葉酸値および出生時体重に及ぼす影響を検討した。
【方法】北海道内の40 産科医療施設で出生前向きコホート研究(「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」)を実施し、2003年2月から2006年3月の間に同意を得られた妊婦を解析対象(日本人の母児1784組)とした。対象者の属性を妊娠初期に回答した自記式調査票、出生時所見を医療診療記録から得て、出生時体重をアウトカム指標とした。妊娠初期の母体血中葉酸値はCompetitive protein binding (CPB) chemiluminiscence assayで測定し、5,10-MTHFR 遺伝子の多型(C677Tおよび A1298C)はリアルタイム-PCR 法で解析した。
【結果】血清葉酸値が低値(<6.8 nmol/L)である妊婦は0.3%であった。5,10-MTHFR C677T遺伝子CT型の妊婦の児の出生時体重は36.40g (95%CI: 2.60 to 70.30, p = 0.035) 増加し、特に、非喫煙妊婦の男児では+90.70g (95%CI: 6.00 to 175.50, p = 0.036)とより増加した。しかし、受動喫煙妊婦でC677T遺伝子TT型では女児の出生時体重が99.00g (95% CI: -190.26 to -7.56, P = 0.034)低下した。一方、5,10-MTHFR A1298C遺伝子多型がAA型の妊婦では血清葉酸値が低下し、さらに、喫煙妊婦では出生時体重が107g (95%CI, -180 to -33.9, p = 0.004) 低下した。
【結論】日本人妊婦において、母の葉酸代謝に関わる遺伝子多型のうち、5,10-MTHFR C677T 遺伝子CT型では出生時体重は増加し、特に非喫煙妊婦の男児では顕著であったが、5,10-MTHFR A1298C遺伝子多型がAA型では、妊娠中に喫煙すると出生時体重がさらに低下したことから、母の喫煙曝露と葉酸代謝の個体差との交互作用が出生時体重に関与する可能性が示唆された。
キーワード 出生体重、喫煙、MTHFR、遺伝子多型、葉酸、日本
P91-102

エビデンスに基づく骨粗鬆症予防ガイドラインの配布が市町村保健センターの保健指導にもたらす効果:無作為割付比較試験による評価

中谷芳美(福井県立大学地域看護学)、玉置淳子、小松美砂、伊木雅之、梶田悦子

【背景】現在の骨粗鬆症予防の保健指導は必ずしもエビデンスに基づいていない。そこで、エビデンスに基づく骨粗鬆症予防ガイドラインを市町村保健センターに配布することが保健指導の改善に寄与するかどうかを評価した。
【方法】全国の市町村保健センターを対象としたアンケート調査で「骨粗鬆症予防対策を改訂する予定がある」と回答したセンターの中から無作為抽出された100箇所を対象に、無作為割付比較試験を実施した。対象センターは地域と市/町村を層別要因とした最小化法によって1:1の比率で介入群と対照群に割り付けられ、介入の前後で、ガイドラインによって推奨された保健指導の実施状況が、割付を伏せられた評価者によって評価された。介入群にはガイドラインを配布し、対照群にはガイドライン以外の資料を使用して改訂するように依頼した。解析は割付優先の分析で行った。
【結果】介入群の50%がガイドラインを使用した。介入前、エビデンスに基づく保健指導の実施状況に両群間の有意差は認められなかった。介入後は閉経後女性に対する食事からのカルシウム摂取指導と高齢者に対する運動指導において、介入群の方がエビデンスに基づく保健指導の実施率が高かった。カルシウムとビタミンDの摂取指導、運動指導は介入群の方がよりエビデンスに基づく保健指導となった。
【結論】ガイドラインはヘルスケア専門職の保健指導をよりエビデンスに基づくものに改善するのに役立つことが示唆された。しかしながら、改善は専門職が改善に関する知識や能力がある項目に限られる傾向にあった。
キーワード:エビデンスに基づくガイドライン、骨折、骨粗鬆症、保健指導、無作為割付比較試験 P103-112

ガンマグルタミルトランスフェラーゼとがん罹患:大崎国保コホート研究

坪谷透(東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野)、栗山進一、永井雅人、寳澤篤、菅原由美、遠又靖丈、柿崎真沙子、西野善一、辻一郎

【背景】実験研究では、腫瘍の進展においてガンマグルタミルトランスフェラーゼ(GGT)が役割を果たしていることが示されているが、GGTとがん罹患に関する疫学研究は限られている。本研究は、GGTとがん罹患の関連とその関連におけるアルコール摂取量の影響を検討した。 【方法】1995年に健康診査を受診し当時がんの既往が無い40歳から79歳の15,031名のコホートを利用した。GGTはSzasz法にて測定した。1996年1月1日から2005年12月31日まで対象者の追跡を行った。がん罹患の情報は、宮城県の地域がん登録を用いた。GGTを4分に分け、GGTが最も低い群(GGT <13.0 IU/ml)を基準群とし、各群のハザード比 (HRs)と95%信頼区間を計算した。
【結果】追跡期間中に1,505名のがん罹患が確認された。最もGGTが高い群 (GGT ≥31.0 IU/ml)の多変量調整ハザード比は、1.28 (95% CI, 1.08–1.53; P for trend, <0.001)であった。結腸直腸がんの多変量調整ハザード比は、統計学的に有意に上昇していた。食道がん・膵臓がん・乳がんの多変量調整ハザード比は、統計学的に有意ではないものの上昇していた。この正の関係は、現在飲酒者のみで観察された。
【結論】GGTとがん罹患の正の関係は、アルコール関連がんと現在飲酒者でのみ観察された。GGTとがん罹患の正の関係は、主としてアルコール消費を反映したものである。
キーワード:ガンマグルタミルトランスフェラーゼ、がん罹患、地域住民研究、前向き研究、大崎国保コホート研究
P144-150

自記式食事歴法質問票および簡易型自記式食事歴法質問票はいずれも日本人成人の栄養素摂取量をランク付けする能力を十分に有する

児林聡美(東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学)、本田悟、村上健太郎、佐々木敏、大久保公美、廣田直子、野津あきこ、福井充、伊達ちぐさ

【背景】日本人の食事を評価するための方法として、自記式食事歴法質問票(DHQ:150食品項目から成る半定量式食事質問票)および簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ:58食品項目から成る固定量式食事質問票)が開発された。そこで、16日間食事記録(DR)を基準に用いて、DHQおよびBDHQから推定される栄養素摂取量の妥当性を比較した。
【方法】日本の3地域(大阪、長野、鳥取)において、31~69歳の日本人女性92人および32~76歳の日本人男性92人が研究に参加し、非連続4日間のDR、ならびにDHQおよびBDHQを4回(季節ごとに1回ずつ)実施した。
【結果】42種類の栄養素摂取量(残差法によるエネルギー調整済値)に関して、女性では16日間DRで推定された摂取量と1回目のDHQ(DHQ1)で推定された摂取量を比較して有意な差がなかった栄養素は18栄養素(43%)であり、16日間DRと1回目のBDHQ(BDHQ1)の間では14栄養素(33%)であった。男性でも同様に検討したところ、DHQ1で4栄養素(10%)、BDHQ1では21栄養素(55%)であった。DRと質問票から推定された栄養素摂取量のピアソンの相関係数を算出したところ、その中央値(および四分位範囲)は、女性ではDHQ1で0.57(0.50~0.64)、BDHQ1で0.54(0.45~0.61)であり、男性ではDHQ1で0.50(0.42~0.59)、BDHQ1で0.56(0.41~0.63)であった。また、4回のDHQおよびBDHQから推定された摂取量の平均値を用いて検討した場合にも、類似の結果が得られた。
【結論】DHQおよびBDHQで集団の摂取量平均値を推定できる栄養素は、本研究の日本人対象集団では限られていたが、これら質問票は多くの栄養素に関して、集団中における個人摂取量をランク付けする能力を十分に有していることが示された。
キーワード:食事歴法質問票、栄養素摂取量、妥当性、日本人
P151-159

香川県小豆郡における前向きコホート研究の計画概要:SHEZ研究

鷹尾友紀子(一般財団法人阪大微生物病研究会、大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学講座公衆衛生学教室)、宮﨑美行、大西史剛、組橋英明、五味康行、石川豊数、奥野良信、森康子、浅田秀夫、山西弘一、磯博康

【背景】帯状疱疹の発症率や危険要因についての研究は、主に西洋諸国にて実施されてきたが、アジア人集団でのエビデンスは限られており、コホート研究はこれまで行なわれていない。そこで我々は香川県小豆郡において3年間の前向きコホート研究を行い、日本人における帯状疱疹の発症率及び発症と免疫の関係について研究を行なう。
【方法】3年間の調査期間中、4週に一度の電話調査により、帯状疱疹発症の有無を確認する。帯状疱疹の疑いがある場合、臨床症状の調査、細胞性免疫及び液性免疫の測定、発疹出現部の写真撮影、PCR試験およびウイルス分離による水痘帯状疱疹ウイルスの検出、疼痛の調査にて帯状疱疹症例を確定する。なお、調査の種類は3種類あり、登録時に選択し決定される。A調査に登録した者は、帯状疱疹の過去罹患歴の有無及び健康に関する調査票に回答する。B調査に登録した者は、前項に加えて水痘抗原を用いた皮内検査を受け、C調査に登録した者は、更に血液検査を受ける。
【結果】我々は2009年12月から2010年11月にかけて小豆郡在住の50歳以上12,522名(登録率65.7%)の登録者を得た。
【結論】本研究は特定地域における日本人の帯状疱疹発症率や発症と免疫との関係等、帯状疱疹に関する貴重なデータを提供することが可能であろう。
キーワード:帯状疱疹、水痘皮内検査、発症率、前向きコホート研究、細胞性免疫
P167-174

 
Share