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Journal of Epidemiology vol.20-(4)

1) ホモシステイン代謝と葉酸反応性の遺伝子多型
-有用な遺伝子情報を明らかにする包括戦略の一例-

宮木幸一(国立国際医療センター医療情報解析研究部臨床疫学研究室長)

ホモシステインは動脈硬化性疾患の危険因子の一つであり、その血漿中濃度は遺伝的素因(希な遺伝子変異のみならずコモンな遺伝子多型を含む)の影響を強く受けることが知られている。本稿ではホモシステイン代謝に関する有用な遺伝子情報を明らかにするためのポストゲノム時代の包括戦略について述べる。標準的な手法としては既知の生物学的知見に基づいた候補遺伝子アプローチがあり有効である。独立した研究結果を集め、疫学的に適切に批判的吟味をして情報統合することで、観察された関連が真のものか否かを明らかにすることができる。一方、生物学的知見を一切使わないGenome Wide Association Study (GWAS)と呼ばれる全ゲノム領域の探索方法が近年実用化されはじめ、新しい候補遺伝子の発見や今まで示唆されてきた関連を確かめることができるようになってきた。著者らのランダム化比較試験やその他の諸研究でメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)C677T多型の重要性は示されてきたが、近年大規模なGWASにより独立してその重要性が裏付けられた。GWASにより新たな候補遺伝子が見つかることが多いが、それらが真に関連しているかどうかは独立した研究で確かめる必要がある。このホモシステイン代謝の例では古典的な候補遺伝子アプローチが真の関連を見つけるのに十分ロバストであった。GWASにより新たに見つかった候補遺伝子についてはよくデザインされた疫学研究により検証される必要がある。CONSORTやSTREGAといった国際的な声明のチェックリストはこのような研究を実施するのに有用である。
キーワード:ホモシステイン、代謝、葉酸、Single Nucleotide Polymorphism(SNP)、Genome Wide Association Study (GWAS)
P266-270

2) 耳鳴の有病率と関連因子:日本人地域在住高齢者研究

道川武紘(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室)、西脇祐司、菊池有利子、齊藤秀行、水足邦雄、岡本ミチ子、武林亨

【背景】欧米諸国の高齢者において、耳鳴の有病率が高いという報告がなされ、いくつか耳鳴の危険因子が推測されている。しかしながら、地域在住高齢者を対象としたエビデンスには乏しく、渉猟しうる限り欧米人以外の集団からの報告はない。この研究の目的は、日本人地域在住高齢者における耳鳴の有病率を求め、そして耳鳴の関連因子を探索することである。
【方法】我々は、2006年に群馬県高崎市倉渕町在住65歳以上住民を対象に全戸訪問聞き取り調査を行い、1320名(男性584名、女性736名、回答率98.7%)から耳鳴や耳鳴関連因子の情報を得た。年齢階級および男女別に耳鳴の有病率を算出し、ロジスティック回帰分析を用いて耳鳴に関連する因子の検討を行った。
【結果】全体の耳鳴の有病率は18.6%(男性18.0%、女性19.0%)であった。年齢階級および男女で、有病率に差を認めなかった。聞こえの困難性、抑うつ気分、服薬、心血管疾患の既往および医療機関の受診が必要なほどの膝関節痛が耳鳴と関連していた。
【結論】日本人高齢者においても耳鳴はよく認める症状であった。この時間断面研究によって明らかとなった耳鳴関連因子は、改善できる可能性があり、今後、縦断研究による検討が望まれる。
キーワード:耳鳴、有病率、危険因子、高齢者
P271-276

3) 日本の4都市に居住する成人における近隣環境の認知と歩行との関連

井上茂(東京医科大学公衆衛生学講座)、大谷由美子、小田切優子、高宮朋子、石井香織、北林薪子、水上健一、James F Sallis、下光輝一

【背景】近年の研究によって、身体活動の決定要因としての環境要因の重要性が注目されている。しかしながら、日本人を対象とした研究は少ない。本研究の目的は近隣環境の認知と、さまざまな目的で実施する自宅近隣での歩行との関連を、日本人において検討することである。
【方法】1,461人の日本人成人(平均年齢±標準偏差:48.2±14.1歳、男性44.8%)を対象にポピュレーションベースの横断研究を実施した。自宅近隣の環境と歩行習慣は質問票を用いて評価した。環境によるさまざまな歩行習慣実施のオッズ比を算出した。オッズ比の算出では年齢、性別、その他の交絡要因による調整を行った。
【結果】自宅近隣の環境要因として、高い住居密度(オッズ比、95%信頼区間:1.47, 1.11-1.96)、中等度の混合土地利用度(多様性)(1.37, 1.04-1.81)、良好な歩道・自転車道(1.56, 1.19-2.04)、魅力的な景観(1.49, 1.14-1.95)を認知していることと、歩行習慣とに関連が認められた。また、関連する環境要因は歩行の目的によって異なっていた。日常生活での歩行と通勤での歩行は関連する環境要因が類似しており、住居密度、混合土地利用度などが関連する環境要因だった。一方、余暇時の歩行と関連する環境要因は、歩道・自転車道、景観、交通面での安全だった。女性の余暇歩行では従来の研究とは異なる関連が認められ、住居密度が高いこと、混合土地利用度(多様性)が良好なことが、余暇歩行を実施しないことと関連していた。
【結論】自宅近隣の環境と歩行との関連は歩行の目的によって異なっていた。結果は、欧米における先行研究とおおよそ一致していたが、女性において住居密度が高いこと、混合土地利用度(多様性)が良好なことが、余暇歩行を実施しないことと関連していた点は従来の知見とは異なっていた。自宅近隣の環境要因は歩行習慣を推進のための介入のターゲットになりうるものと考えられた。
キーワード:アクティブ・トランスポート、近隣環境、身体活動、政策、歩行
P277-286

4) 胃がん検診における高濃度硫酸バリウムの診断精度評価 -大阪府がん登録の記録照合による受診者の解析-

山本兼右 (大阪がん予防検診センター)、山崎秀男、黒田知純、久保次男、大島 明、勝田稔三、桑野忠雄、竹田芳弘

背景:日本消化器がん検診学会は、2004年に高濃度硫酸バリウム使用の新撮影法を推奨した。本研究の目的は、高濃度硫酸バリウム使用の新撮影法の診断精度 (感度、特異度) を評価することである。
方法:対象は、平成12年1月1日から平成14年12月31日までの3年間に、当センターの胃がん検診を受診した大阪府在住者171,833名で、その内、中濃度硫酸バリウム使用の従来法の受診者123,497名、高濃度硫酸バリウム使用の新撮影法の受診者48,336名である。方法は、対象者の個人識別情報を大阪府がん登録ファイルと照合して追跡を行い、平成15年12月31日までのがん罹患を把握した。検診日で異常なしと判定されてから1年以内にがんと診断された受診者を偽陰性例とし、感度と特異度を算出した。
結果:中濃度硫酸バリウム使用の検診感度は92.3%、特異度は91.0%であった。高濃度硫酸バリウム使用の検診感度は91.8%、特異度は91.4%であった。両硫酸バリウム使用の撮影法をROC解析した結果、有意差を認めなかった。
結論:高濃度硫酸バリウム使用の新撮影法は、感度と特異度とROC解析の結果、従来法とほぼ同等の診断精度であることが明らかになった。
キーワード:胃がん検診、硫酸バリウム、感度、特異度、ROC解析
P287-294

5) 日本人におけるHuman-Leukocyte-Antigen-A (HLA-A)アレルと子宮頚癌リスクとの関連

細野覚代(名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科学講座、愛知県がんセンター研究所疫学・予防部)、川瀬孝和、松尾恵太郎、渡邉美貴、梶山広明、広瀬かおる、鈴木勇史、城所久美子、伊藤秀美、中西透、谷田部恭、浜島信之、吉川史隆、田島和雄、田中英夫

【背景】日本人女性における子宮頚癌リスクとヒト白血球抗原A座 [human-leukocyte antigen-A (HLA-A)]の遺伝子多型との関連を調べるため症例対照研究を行った。
【方法】浸潤子宮頚部扁平上皮癌119症例と年齢・月経状態を調整した非がん女性119例を比較した。この研究の参加者は全員血液試料を提供した。生活習慣情報は自記式生活習慣質問票を使って収集した。子宮頚癌リスクとの関連の強さを推定するため、ロジスティック回帰分析を使用した。
【結果】HLA-A*0206のアレル頻度は症例において有意に低かった (P=0.006)。子宮頚癌リスクとA*0206において負の関連が認められたが [オッズ比 (OR)=0.31, 95%信頼区間 (95% CI)=0.15-0.65, P=0.002]、A*2402では正の関連を認めた (OR=1.76, 95%CI=1.00-3.09, P=0.048)。しかし、多重比較の補正後では、A*0206のみ子宮頚癌リスクの低下と有意に関連していた(P=0.036)。喫煙状況による層別化解析後も、A*0206と子宮頚癌リスクとの負の関連は保たれていた。(never smoker: OR=0.37, 95%CI=0.15-0.90; ever-smoker: OR=0.23, 95%CI=0.06-0.89)。
【結語】日本人女性においてHLA-A*0206の遺伝子多型は子宮頚部扁平上皮癌リスクと負の関連を認めた。これらの結果はHLA-A遺伝子多型が子宮頚癌リスクに関与している可能性を示している。そのため別な集団での追加解析が必要と考えられる。
P295-301

6) 日本における川崎病の疫学像:2007-2008年の全国調査結果

中村好一(自治医科大学公衆衛生学教室)、屋代真弓、上原里程、定金敦子、千原泉、青山泰子、小谷和彦、柳川洋

【背景】最も新しい川崎病の疫学像は不明である。
【方法】第20回川崎病全国調査は2007年と2008年に治療された患者を対象に2009年に実施された。小児病院と100床以上の病床を有して小児科を標榜する病院を対象として、2年間の患者すべての報告を求めた。
【結果】1540病院から23,337人(2007年:11,581人、2008年:11,756人)が報告された。このうち男が13,523人、女が9,814人であった。0~4歳人口10万対年間罹患率は215.3(2007年)および218.6(2008年)で、これらは日本における年間罹患率の最高記録であった。月別患者数は冬期で多く、夏期にも小さな上昇が見られた。年齢別罹患率は9~11か月をピークとする一峰性の分布であった。急性期の心障害及び心後遺症の割合は乳児期と年長児群で高かった。
【結論】日本における川崎病の患者数と罹患率は上昇し続けている。
川崎病、罹患率、心血管病、免疫グロブリン静注療法、疫学
P302-307

7) 日本の1995-2004年における障害なし平均余命の推移

橋本修二(藤田保健衛生大学医学部衛生学講座)、川戸美由紀、世古留美、村上義孝、林正幸、加藤昌弘、野田龍也、尾島俊之、永井雅人、辻一郎

【背景】現在、日本の平均寿命は世界で最も長いが、障害なし平均余命の近年の推移は検討されていない。
【方法】日本の1995-2004年における全国調査データを用いた。これには、自記式の同一調査票による活動状況の情報が含まれている。活動制限の有無別の平均生存期間をサリバン法で算定した。
【結果】活動制限なし平均生存期間は、0歳時点で、男では1995年が68.5年、2004年が69.7年であり、女ではそれぞれ72.1年と73.0年であった。その平均寿命に占める割合は、同期間で男では89.7%から88.6%へ、女では87.1%から85.3%へ低下していた。日常生活動作を除く活動の制限あり平均生存期間では、平均寿命に占める割合は男女とも上昇していた。日常生活動作の制限あり平均生存期間では、その割合は女で上昇し、男で上昇していなかった。
【結論】活動制限の有無別の平均生存期間の推移から、日本の1995-2004年において、男女とも軽度または中等度の障害を有する生存期間が延びていることが示唆される。
障害なし平均余命、健康余命、保健統計
P308-312