Journal of Epidemiology

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日本語抄録

 

Vol.18-3

妊娠初期の喫煙は、すべての低出生体重児におけるリスクファクターとなっているのか?

鈴木孝太(山梨大学医学部社会医学講座)、田中太一郎、近藤尚己、薬袋淳子、佐藤美理、山縣然太朗
【背景】低出生体重児は出生後の発育に関してリスクとなっている。また、妊娠中の母体喫煙は低出生体重児、Small for Gestational Age (SGA)、早産のリスクであるとされているが、それぞれオーバーラップしており、低出生体重児に関して、それらを分離して解析したものはない。そこで、本研究では低出生体重児を、SGA・Appropriate for Gestational Age (AGA)、早産・正期産に分類し、それぞれについて、妊娠中の喫煙がどの程度リスクとなっているかを検討した。
【方法】対象は1995年1月から2000年7月までに山梨県甲州市(旧塩山市)で妊娠届を提出した妊婦である。まず、コホート全体での低出生体重児、SGA、早産を従属変数、妊娠中の喫煙を独立変数として、その後、Caseを低出生体重児をSGA・AGA、早産・正期産に分類した各群とし、妊娠中の喫煙を独立変数とし、多重ロジスティック回帰モデルによる多変量解析を行った。
【結果】期間内の対象者は1329名であり、妊娠届時調査データと、母子管理票データの連結が可能であったのは1100人(82.8%)であった。このうち低出生体重児は81人(7.4%)であった。多変量解析を行ったところ、コホート全体では、低出生体重児、SGA児ともに妊娠初期の喫煙がリスクとなっていた。低出生体重児を分類した結果、SGA群とAGA群の比較では、SGA群で妊娠初期の喫煙がリスクとなっていたに対し、AGA群では喫煙が有意なリスクとはなっていなかった。早産群と正期産群の比較では、早産群で喫煙との関連は認められなかった。一方正期産群では喫煙が有意なリスクとなっていた。
【結論】これらの結果から、低出生体重児のうちAGAや早産を伴う児に関しては、本研究では検討できなかった歯周病などがそのリスクとなっている可能性が示唆された。低出生体重児の予防には、妊娠中の喫煙対策に加えて、臨床的な対策も重要であることがうかがえた。
キーワード:低出生体重児、妊娠、リスクファクター、喫煙
P89~96

大気中粒子状物質が喘息児の呼吸器系に及ぼす影響

馬 露(兵庫医科大学公衆衛生学教室)、島 正之、余田佳子、山本紘乃、中井里史、田村憲治、新田裕史、渡辺博子、西牟田敏之
【研究目的】大気中に浮遊する粒子状物質(Particulate matter, PM)の健康影響が国際的に注目されている。本研究では、比較的低濃度のPMが小児喘息患者の最大呼気流量(Peak expiratory flow, PEF)及び喘鳴症状に及ぼす急性影響を検討した。
【方法】郊外にある病院に長期にわたって入院している小児喘息患者19名を対象に5ヶ月間実施した。対象者は、毎日定期的に病院内で朝と夜にスパイロメーターを用いてPEFを測定し、喘鳴の有無とともに記録されている。2.5μm以下のPM (PM2.5)濃度は、病院に近接する一般環境大気測定局で連続測定を行った。さらに、レーザーダイオードを光源とするデジタル粉塵計を用いて、病院の内外でもPM2.5の連続測定を行った。
【結果】朝と夜のPEFは院内PM2.5濃度との間に有意な負の関連が認められ、24時間平均濃度が10 μg/m3増加したときのPEFの変化量は朝-2.86 [95%信頼区間(CI): -4.12, -1.61] L/min、夜-3.59 [95%CI: -4.99, -2.20] L/minであった。院外PM2.5濃度との関連も有意であったが、院内濃度との関連よりも小さく、測定局のPM2.5濃度との関連は有意ではなかった。朝、夜の喘鳴は院内PM2.5濃度の増加によって有意に起こりやすくなる関連が認められた(オッズ比はそれぞれ10 μg/m3増加あたり1.014 [95%CI: 1.006, 1.023]、1.025 [95%CI: 1.013, 1.038])。院外濃度は夜の喘鳴出現との関連が有意であったが、朝の喘鳴との関連はみられなかった。共存大気汚染物質である二酸化窒素濃度の影響を考慮しても、これらの関連性はほとんど同様であった。
【結論】大気中PM2.5濃度が低い地域であっても、PM2.5への曝露が喘息児の呼吸器系に影響を及ぼす可能性が示唆された。対象者が長時間生活している環境におけるPM2.5濃度を測定して評価を行うことの必要性が示された。
キーワード:粒子状物質、喘息、最大呼気流量、呼吸音
P97~110

日本での大規模コホート研究に基づく、喫煙による平均余命の短縮

小笹晃太郎(京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学)、片野田耕太、玉腰暁子、佐藤洋、田島和雄、鈴木隆一郎、津金昌一郎、祖父江友孝
【背景】喫煙による平均余命の短縮および禁煙による平均余命の回復を示すことは、健康政策における喫煙対策を進める上で有益である。
【方法】対象は、1990前後に開始された日本での大規模コホート研究(JPHCーI、II、3府県コホート、JACC)の参加者で、ベースライン時に40~79歳の男性140,026人、女性156,810人である。平均追跡期間(±標準偏差)は9.6±2.3年であり、期間中に男性16,282人、女性9,418人が死亡した。ベースライン時の質問票による喫煙状況に従って分類された40-79歳の対象者について、到達年齢での性年齢別死亡率を算出した。年齢別死亡率は、死亡年齢での死亡者数を、到達年齢での観察人年で除した値である。この死亡率に基づいて、喫煙状況別の生命表および生存曲線を作成した。
【結果】40歳での男性喫煙者、過去喫煙者、非喫煙者の平均余命は、それぞれ38.5年、40.8年、42.4年であった。女性では、順に42.4年、42.1年、46.1年であった。男女ともに、喫煙者の半数が死亡する年齢は、非喫煙者より約4年若かった。40歳、50歳、60歳、および70歳までに禁煙した男性過去喫煙者の平均余命は、それぞれ、4.8年、3.7年、1.6年、および0.5年、喫煙者より長かった。
【結論】喫煙は平均余命をかなり減少させる。早期に禁煙すると、喫煙を続けるよりは生存状況が改善される。
キーワード:喫煙、平均余命、コホート研究
P111~118

禁煙者での血清尿酸値上昇について

冨田眞佐子(JR東日本健康推進センター)、水野正一、横田和彦
【はじめに】禁煙後の血清尿酸値(UA)の変動については、未だ明らかになっていない。
【資料と方法】2000年に健康診断を受診した日本人男性勤労者16,642名を対象として、禁煙が血清尿酸値に及ぼす影響を検討した。
【結果】禁煙者のUAは6.18mg/dLと最も高値で、非喫煙者は6.10mg/dL、喫煙者では5.98mg/dLと低かった。禁煙者の体重は非喫煙者よりも0.6Kg、喫煙者よりも1.5Kg重かった。アルコール摂取量と喫煙習慣の間には強い相関関係が認められ、禁煙者、喫煙者、非喫煙者の順でアルコール摂取量が多かった。年齢、肥満度(BMI)、アルコール摂取量で補正したところ、禁煙者のUAは依然として喫煙者の値より0.2mg/dL高値であった。
【結論】喫煙者ではスーパーオキサイドの作用あるいは代謝作用を介してUAが抑制されるが、禁煙によってそのことから解放される可能性が示唆された。
キーワード:禁煙、血清尿酸値、BMI、アルコール摂取
P132~134

 
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