Journal of Epidemiology

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日本語抄録

 

Vol.17-2

日本における喫煙状況別にみた日本人の平均余命:NIPPON DATA80
Life expectancy among Japanese of different smoking status in Japan: NIPPON DATA80

村上義孝(滋賀医科大学福祉保健医学)、上島弘嗣、岡村智教、門脇崇、寶澤篤、喜多義邦、早川岳人、岡山明、NIPPON DATA80研究グループ
【背景】平均余命は人間集団において健康状況を記述する重要な指標である。米国および欧州のいくつかの研究では、異なる喫煙状況における平均余命を記述することによって喫煙の害を示している。男性で高い喫煙率を示すにも関わらず、長い平均余命を誇る国である日本において、そのような研究は実施されていない。
【方法】40歳から85歳のおける喫煙状況別の男女の平均余命を算定するために、簡易生命表法を適用した。喫煙状況で層別した年齢階級別死亡率は日本人集団の無作為抽出標本の追跡データ(NIPPON DATA80)から得た。
【結果】1980年のベースライン時の調査で、喫煙している人の割合は男性62.9%、女性8.8%であった。40歳平均余命は男性では喫煙者で42.1年、禁煙者で40.4年、喫煙者で38.6年、女性では非喫煙者で45.6年、禁煙者で45.9年、喫煙者で43.4年であった。男性の喫煙者では、40歳平均余命でみると、1日1箱未満の集団で39.0年であり、1日1-2箱(38.8年)、2箱以上(38.1年)と比して長かった。
【結論】日本人集団において、平均余命は喫煙の度合いが増すにつれて次第に減少することが観察された。
キーワード:平均余命、喫煙、死亡、NIPPON DATA80
(P31~37)

乳製品摂取と癌死亡リスク
Consumption of Dairy Products and Cancer Risks

松本正俊(自治医科大学地域医療学センター地域医療学部門)、石川鎮清、中村好一、萱場 一則、梶井英治
乳製品の摂取と各種癌死亡との関連について過去の報告は少ない。今回我々は1992年4月 から1995年7月までの間に全国12地区11349名の住民を対象に牛乳、バター、ヨーグルトの3製品の摂取頻度について自記式質問票調査を行った。対象者は2002年まで追跡し、死亡した例については死亡診断書をもとに死因を確認した。乳製品と癌死亡との間のハザード比、およびその95%信頼区間はコックスの比例ハザードモデルを使って算出した。死亡頻度の高かった8種類の悪性腫瘍のうち、年齢と性別で調整すると血液腫瘍(14例)のみがバター摂取と有意に関連していた(ハザード比5.11、95%信頼区間1.40-18.62)。また血液腫瘍は牛乳摂取とも有意に近い関連を示した(ハザード比3.17、95%信頼区間0.99-10.17)。血液腫瘍死亡例をリンパ腫と非リンパ腫に分けると、バター摂取と牛乳摂取の両方が非リンパ腫による死亡と有意に関連していた(バターのハザード比10.04、95%信頼区間2.39-42.18;牛乳のハザード比9.86、95%信頼区間1.23-79.19)。バター摂取は、そしておそらく牛乳摂取も、血液腫瘍による死亡と関連していた。その関連は特に非リンパ腫において強かった。
キーワード:乳製品、癌リスク、白血病、リンパ腫、コホート研究
(P38~44)

慢性閉塞性肺疾患の罹患及び年齢と喫煙との関連
Incidence of Chronic Obstructive Pulmonary Disease, and the Relationship between Age and Smoking in a Japanese Population

小島重子(藤田保健衛生大学医学部衛生学教室)、榊原博樹、茂谷真一、廣瀬邦彦、水野文雄、落合正宏、橋本修二
【背景】慢性閉塞性肺疾患(COPD)の正確なリスク評価には、国際的診断基準に基づく大規模な縦断研究が必要である。The Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD)の診断基準は、国際的標準と位置づけられているが、この基準を用いた縦断研究は、北欧での3研究のみで日本を含むアジアでは見当たらない。我々は、GOLDの診断基準に基づく日本のCOPD罹患率及び年齢と喫煙の罹患率比(IRR)を推定した。
【方法】1997年4月~2005年3月に、スパイロメトリー検査を含む人間ドックを複数回受診した、25~74年歳の17,106人を対象者とした。対象者の総観察期間は、男性47,652人年、女性25,224人年であった。年齢と喫煙のIRRは、両変数を調整したコックス比例ハザードモデルを用いて推定した。
【結果】COPD罹患者は、466人であった。100人年あたり罹患率(95%信頼区間[CI])は、男性0.81(0.73-0.89)、女性0.31(0.24-0.38)であり、男性も女性も年齢と共に有意に増加した。男性現在喫煙者の罹患率は、非喫煙者より有意に高かったが、女性は有意ではなかった。男性現在喫煙者のIRR(95%CI)は、Brinkman Index <400、400-799及び800+でそれぞれ、1.2(0.8-1.9)、2.7(1.9-3.8)及び4.6(3.3-6.5)であった。
【結論】COPDのリスクは、加齢と共に徐々に増加し、喫煙量との用量反応関係のあることが示唆された。
キーワード:肺疾患-慢性閉塞性、罹患、喫煙、疫学、年齢要因
(P54~60)

軽度虚弱地域在住高齢者におけるパワーリハビリテーションの効果は身体機能と高次生活機能で異なる
Differential Effects of Power Rehabilitation on Physical Performance and Higher-level Functional Capacity among Community-dwelling Older Adults with a Slight Degree of Frailty

太田充彦(高知大学医学部公衆衛生学教室)、安田誠史、堀川俊一、藤村隆、大原啓志
パワーリハビリテーション(PR)が軽度虚弱地域在住高齢者の身体機能や高次生活機能の向上をもたらすかは、科学的根拠がいまだ不十分である。本比較対照試験の対象者は、軽度の介護が必要とされた地域在住高齢者46人である。介入群24人と対照群22人に割付された対象者のうち、介入群17人、対照群15人の計32人(平均年齢77歳、男性28%)が試験を完了して解析対象となった。介入群はPRを週2回、12週にわたって実施した。介入期間前後で両群の身体機能(筋力、平衡機能、柔軟性、歩行機能)および高次生活機能の変化を比較した。高次生活機能はTokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence (TMIG-IC)の得点、および、介護保険制度で評価される介護度を指標とした。介入群はup-and-goテスト(中央値の変化:介入群 4.4秒減少、対照群 0.2秒減少;p = 0.033)および、10m歩行時間(介入群 3.0秒減少、対照群 0.2秒増加;p = 0.007)の向上を認めた。TMIG-IC得点、および、介護度の変化は、両群に有意な差を認めなかった。軽度虚弱地域在住高齢者に対して、PRは歩行機能の向上をもたらす。しかし、高次生活機能の向上はみられなかった。この結果は、PRによってもたらされた身体機能の向上が直ちに高次生活機能の向上と結びつかないことを示している。
(P61~67)

 
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