要約

新型コロナウイルス感染での死亡の危険因子は、 高年齢、敗血症のきざし、血液が固まったきざし

 中国医学科学院のチョウ医師らは、新型コロナウイルス感染での死亡の危険因子などの疫学特性を明らかにするために、後ろ向き追跡研究を行い、国際的な医学誌であるランセット誌に報告を行いました。

【方法】中国・武漢の研究対象となった2つの病院では、2020年1月31日までに813人の成人患者が入院しました。そのうち、重要なデータ項目が不明ではない人で、1月31日までに死亡した患者54人と、生存して退院となった137人の合計191人について、蓄積されている電子カルテデータをもとに、統計分析を行いました。

【死亡に関連する危険因子】分析の結果、表1に示すように、年齢が高くなるほど、また、敗血症や内臓の障害のきざしがわかるSOFAスコアが高いと、また血液が固まったきざしであるDダイマーという検査値が高いと、死亡の危険が増加するという結果でした。なお、SOFAスコアと同じような意義があり、簡単に判定できるqSOFAスコアが高い場合も、同様に死亡の危険が高いことがわかりました。多くの死亡患者で、血液が固まったきざしが見られたことについては、炎症性サイトカインの反応により、患者の血管のプラークと呼ばれるコレステロールなどの固まりの破裂が起こり、全身の血液が固まりやすい状態に変化した可能性が考えられます。

記事1表1小

【行われた治療】患者に対して行われた治療は表2の状況でした。コロナウイルスではない細菌への感染の予防や治療のためにほとんどの患者に抗生物質治療が行われました。既存の抗ウイルス薬、免疫の暴走を食い止めるステロイド薬、免疫の働きを助ける免疫グロブリン薬なども試みられています。酸素吸入や人工呼吸は多くの死亡した患者で使われました。

 死亡した患者について、最終的に敗血症になった患者は100%、呼吸不全は98%でした。一方で、生存した患者でも一時、それらの状態になって回復した患者もいました。死亡した患者で、敗血症の状態になったのは症状がでてから中央値で10日目でした。

 ウイルスが消えるまでの日数は中央値20日、最大で37日でした。

記事1表2小

【言葉の説明】

 P値:0.05より小さい場合は、単なる偶然の結果ではなさそうと判断されます。

中央値:値が大きい人から小さい人まで順番に並べたときに、ちょうど中央の順番の人がいくつであるかを示したものです。一部の人で、とても高い値の人がいる場合に、平均値は多くの人の値よりも高い値になることがあるため、そのような時には中央値が使われます。

SOFAスコア:もともとは敗血症を判定するために使われていましたが、それ以外でも重要な内臓の障害を評価するために使われています。次の6項目について、それぞれ正常の時の0点~とても異常の時の4点で点数をつけて合計します。

 ①呼吸(血液中の酸素濃度)

 ②凝固(血小板数)

 ③肝臓(総ビリルビン)

 ④心血管(平均血圧等)

 ⑤中枢神経(意識がはっきりしているか)

 ⑥腎臓(血液中のクレアチニンや尿量)

qSOFAスコア:SOFAスコアの代わりになる、より簡単に測定できる項目でのスコアです。次の3項目のうち、2項目以上に該当する場合に敗血症や内臓障害のおそれがあると判断されます。

 ①呼吸の早さ(1分間に22回以上)

 ②意識状態(完全にはっきりしていない)

 ③収縮期血圧(100mmHg以下)

Dダイマー(D-dimer):血管の中で血液が固まって血栓ができると、そこから発生する物質です。静脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)やDICと呼ばれる全身の血管の中で小さな血の塊ができる状態の時などに増加します。

敗血症:細菌やウイルスなどが増えて、炎症が全身に広がり、内臓の障害が起こる状態です。この研究では、SOFAスコアにより、敗血症の判定が行われています。

呼吸不全:血液中に十分な酸素を取り込めない状態のことです。

サイトカイン:免疫を担う白血球などから分泌される物質です。免疫は本来ウイルスなどに対抗して身体を守るためのものですが、炎症性サイトカインが沢山ですぎると、炎症を加速させ、自分の身体自体も傷つけてしまうことになります。

【この研究論文から参考になること】

 この研究論文は、基本的に、新型コロナウイルス感染症の治療を担当する医師に向けて書かれています。一方で、一般の人の参考にもなります。

 qSOFAスコアにあるように、肺の機能が低下して、息がハアハアして呼吸の速さか1分間に22回以上になる、意識がはっきりしなかったり、トンチンカンな受け答えになったりする、収縮期血圧(血圧の高い方の数字が)100以下になるなどのことがあると、医療機関でのしっかりした治療が必要と考えられます。逆にこれらの症状が無い場合には、生存できる可能性が高いと考えられます。

 また、中国の武漢で医療崩壊に近い状態の時期においても、頑張ってかなり高度な治療が行われたことがわかります。そして、人工呼吸などにより回復する人がいる反面、重篤な状態になると高度な治療を行ったとしても厳しい状況であることもわかります。

(文責 浜松医科大学 尾島俊之)

出典:Zhou F, Yu T, Du R, et al. Clinical Course and Risk Factors for Mortality of Adult Inpatients With COVID-19 in Wuhan, China: A Retrospective Cohort Study. Lancet 2020; 395(10229): 1054-1062. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30566-3