新型コロナウイルス感染予防対策についてのQ&A

 

Q1:新型コロナウイルス検査は、どのくらい正確なのですか?

↡Q1の追加説明

↡Q2:PCR検査とはどんなものですか?

Q1:新型コロナウイルス検査は、どのくらい正確なのですか?

A1:今回の新型コロナウイルス感染症については、現在、PCR検査による診断が行われています(PCR検査については、下記のQ2. PCR検査とはどんなものですか?を参照して下さい)。

「検査の正確さ」は、実際に感染している人と感染をしていない人に対する検査の結果により表されます。(用語解説の「検査の正確さの指標」を参照)

しかし、今回のコロナウイルス感染症については、実際に感染していることの把握が難しいことから、実際の感染者に対してPCR検査がどれほど正しく診断できているかについての正確性の計算がまだできていません。

いくつかの研究では、PCR検査は新型コロナウイルス感染症を完全には診断できていないのではないかと報告するものもあります。例えば、中国・温州医科大学附属病院のファンらの研究(文献1)では、新型コロナウイルスに感染する状況にあった症状のある患者51人に対してPCR検査を実施しました。症状が出てから平均3日の時点で行われた検査では、36人(71%)が陽性で、その後のPCR検査では、最終的に全員が陽性となりました。

また、中国の武漢市にある華中科技大学の医学院附属病院のアイらの研究(文献2)では、新型コロナウイルス感染が疑われ、肺炎の検査のための胸部CT検査と新型コロナウイルスのPCR検査の両方を受けた1014人のデータについて分析を行ったところ、最初にPCR検査を受けた際に、陽性だったのは59%(601/1014)であり、その後、PCR検査を繰り返したところ、最初にPCR陰性だった15名の患者さんがPCR陽性になるまで平均で5.1日を要したと報告しています。

このように、新型コロナウイルスに既に感染していると考えられるのに、感染から日数が経っていない場合、60~70%くらいしかPCR検査が陽性にでない可能性が報告されています。

では、PCR検査は正確ではないのか?というとPCR検査自体が問題というわけではありません。検査するために採取した検体(鼻やのどなどのぬぐい液や喀痰など)にウイルスがいない、または、ウイルスを見つけることができるPCR検査の限界のウイルス量(測定限界値)よりも少ない量のウイルスしか検体に含まれていないとどんなに精度の高いPCR検査でもウイルスを見つけることができないことになります。

例えば、ウイルスに感染していても、鼻やのどにウイルスがいない場合、PCR検査は陰性(ウイルスがいない)という結果になります。これは、検体を取る場所やタイミングの問題であり、ウイルスが存在していない、または非常に少ない場所から検体を取っている場合や、感染して日が余りたっていないためにウイルスが増えておらず、PCRで見つけることができるウイルス量の限界以下である場合などには、PCR検査結果が陰性になることもあります。実際に、今回の新型コロナウイルスの感染は、下気道(肺の奥の方)にウイルス量が多いことが指摘されていることから、痰(たん)などの肺の奥の方から得られる検体での検査が望ましいとされています(参考資料)。

このように、PCR検査は、ある程度のウイルス量があれば、ほぼ正確に診断できると言えますが、検体の取り方や場所、感染からの経過日数などによってその正確さは変わります。PCR検査については、下記のQ2. PCR検査とはどんなものですか?で説明いたします。

文献1:Fang Y, et al. Sensitivity of Chest CT for COVID-19: Comparison to RT-PCR. Radiology, 2020. https://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/radiol.2020200432

文献2:Ai T, et al. Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing in Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Radiology, 2020. https://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/radiol.2020200642

 

Q1の追加説明

 PCRの感度について、このページをご覧になった方から問い合わせをいただきましたので、以下、追加で説明をいたします。

Q1:新型コロナウイルス検査は、どのくらい正確なのですか?」(2020年3月下旬掲載)では、「新型コロナウイルスに既に感染していると考えられるのに、早い段階では、60~70%くらいしかPCR検査が陽性にでない可能性が報告されています。」と説明しています。その後、より詳細な研究結果が報告されていますので、最近のデータも用いながら、以下の項目立てで説明します。

  1. 感度について復習
  2. 真の感染者の把握は難しい
  3. PCR検査は、よいのだけれど、検体が・・
  4. 検体を取る場所と時期に問題あり!新型コロナウイルスの鼻とのどでの量の変化が重要!
  5. 鼻とのどでは、ウイルス量が異なる!唾液がよい?!
  6. 時間とともに変わる検体採取部位のウイルス量
  7. 結局、PCR検査の感度は?
  8. 最後に
1.感度について復習

感度とは、今回の新型コロナウイルス感染の場合、本当に感染している人の中で、どのくらいの割合を診断できるか(感染の把握ができるか)?ということです。100人の真の感染者がいる場合、100人すべてを把握できれば、感度は、100%です。
一方で、感染していない人を感染していないとすることも大事です。これは特異度という指標で表現します。新型コロナウイルスに本当に感染していない人、100名に対して、100名に感染していないと言えれば、特異度100%となります。
感度、特異度、ともに100%が理想ですが、多くの場合、一方を100%にしようとすると他方が下がるトレードオフの関係にあります。詳しくは、検査の正確の指標を参照して下さい。
さて、新型コロナウイルス感染症診断の話に戻します。
感度を把握するためには、真の感染者、真の非感染者を把握し、その中でどのくらいを正確に診断できているか?を把握する必要があります。

2. 真の感染者の把握は難しい

真の感染者を把握するには、どうしたらよいでしょう?
ウイルスに感染していることを証明すればよいのです。
では、ウイルスに感染していることをどう証明するか?これが難しい。現在、最もそれを証明できるのがRT-PCR検査(以下、PCR検査といいます)です。
しかし、感度は、100%ではない。それはなぜなのか?
それをこれから説明します。

3.PCR検査は、よいのだけれど、検体が・・

PCR検査は、「検査対象となるそのウイルスに特徴とされるRNA遺伝子配列」を増幅させて、その存在を判断(診断)します。対象となるサンプル(検体)に含まれるウイルスの量(RNAコピー数)が、「目的のRNA配列」を増幅させるのに必要な量(検出限界のコピー数)以上あれば、増幅することができ、その存在を診断できます(陽性)。
一方、必要とされる量以下の場合、増幅できず(検出できず)、結果は、陰性となります。
コピー数の検出限界については、国立感染症研究所が公表しています。(こちら
つまり、PCR検査により陽性の診断ができるか?できないか?は、検体に含まれるウイルスの量(RNAコピー数)に依存することになります。

4.検体を取る場所と時期に問題あり!新型コロナウイルスの鼻とのどでの量の変化が重要!

新型コロナウイルスに感染すると、体内でウイルスが増えます。その後、検出可能になるのですが、検体を採取する場所は、現在、鼻腔か、咽頭(のどの奥)です。その場所に、感染してから、ずっとウイルスが検査可能な量、居続けるのであれば、PCR検査での検出には問題ありません。
しかし、検体中のウイルス量(RNA配列のコピー数)は、検体を採取する部位やその時間によって変化しています。
どのように異なるのか?それぞれについて、最近発表された研究論文を参照しながら、解説してみましょう。

5.  鼻とのどでは、ウイルス量が異なる!唾液がよい?!

Wikramaratna 1らは、30人の新型コロナウイルス感染患者から繰り返し採取された延べ298検体(150検体が鼻腔から、148検体が咽頭からのスワブ検体)のデータを用い、PCR検査が陽性となる割合を推定しました。その結果、感染直後のPCR検査では、鼻腔からの検体は、咽頭からの検体よりも、6.39%、高く陽性を示すことが明らかとなりました。(時間とともに、陽性割合が下がることも明らかにしています。)
また、Wyllie 2らは、PCR陽性検体のうち、咽頭からの46検体と唾液39検体を比較しています。その結果、唾液検体の方が咽頭検体よりも5倍ほど検出されたRNAコピー数量が多かったと報告しています。今後、唾液によるPCR検査も進むことが予想されます。

図1 図1.数理モデルに当てはめて、推測した検体採取部位(左:鼻腔右:咽頭)による感度(感染者のうち陽性となる割合)の変化。X軸は、発症からに日数。Y軸は、感度。青い帯は、95%信頼区間を示します。CC-BY-NC-ND 4.0 International licenseに基づき、再掲載(論文1より)
http://medrxiv.org/content/early/2020/04/14/2020.04.05.20053355.abstract

6. 時間とともに変わる検体採取部位のウイルス量

感染あるいは発症からの時間によっても検体採取部位のウイルス量(RNAコピー数)は変化します。頻回に検体を採取し、その度にPCR検査をすることにより、ウイルス量の時間的変化が把握できます。
しかし、実際には、頻回に取ることも困難であり、実現不可能なことから、いくつかの報告からのPCR検査と感染(発症から)の日数のデータを集めて、時間経過による検体採取部位からのウイルス量の変化を数理モデルを用いて推定する研究が発表されています。
先のWikramaratna 1らの論文では、鼻腔からの検体によるPCR検査の陽性割合が、発症日で94.39%、発症10日後では、67.15%、発症31日後では2.38%でした。咽頭からの検体では、発症日で88%、発症10日後で、47.11%、発症31日後では、1.05%と推定しています(上記図1)。
このように、感染からの時間経過とともに、次第にPCR検査の陽性割合、つまり検体を採取する部位のウイルスの量(RNA配列のコピー数)が検出限界値を下回っていくことがわかります。
同様の解析をKucirka 3らも行っています。彼らは、7つの研究論文からPCR検査と発症日(もしくは感染推定日)からの日数のデータから、数理モデルを用いて、PCR検査の偽陰性割合の推定をしています(検体採取部位は、鼻腔と咽頭が混在)。陽性者の定義は、一つでもPCR検査が陽性であった場合として計算しています。
偽陰性割合は、感染しているにもかかわらず、検査陰性となる割合で、感度との関係は、偽陰性割合+感度=1となります。つまり1から偽陰性割合を引けば、感度になります。
数理モデルの結果、感染1日後にPCR検査が陰性となる割合は100%(感度は0%)、感染4日後では67%(感度33%)と推定しています。発症日(感染後5日目)におけるPCRの偽陰性割合は38%、つまり感度は62%です。

Kucirkaらの論文に用いられている図:(論文3より)

数理モデルに当てはめ、「推測した偽陰性割合(1から感度を引いた割合)」(上)と「陰性と診断されたが実は感染している確率」(下)の変化。
X軸=感染からの日数(5日の縦の点線は、発症日を示す)
上のグラフ:Y軸=偽陰性割合の推計値(1-感度)
下のブラフ:Y軸=検査が陰性とされたが、実は感染している確率の推計値(1-陰性反応適中度)
※陰性反応的中度については、7.検査の正確さの指標を参照して下さい。

7. 結局、PCR検査の感度は?

検体の採取部位・種類、さらには、感染あるいは発症からの経過時間によりPCR検査の結果が異なること、それはPCR検査自体の問題ではなく、検体採取部位におけるウイルス量(RNAコピー数)の問題であることを説明してきました。
PCR検査の感度は?についての結論ですが、PCR検査の感度については、PCR検査自体以外の要因の影響が大きいこともあり、一概に感度は何パーセントであると言い切れないのが実情です。
あえて、Kucirka 3らの結果から感度を示すとすると、感染から8日目(症状発現の3日後)に偽陰性割合が最も低くなり、その値が、20% (95%信頼区間:12% ― 30%)となることから、感度として一番よい値になるのが、感染から8日目(症状発現の3日後)の80%(95%信頼区間:70%-88%)となります。

8.最後に

JAMA4に見やすい概念図が掲載されています(こちらから)。時間とともに変わる診断方法との関係が理解できると思います。X軸が時間で、Y軸が陽性となる確率の目安で、それぞれの線は、感染鼻腔検体を用いたPCR検査(青)、呼吸器系からのウイルス分離(赤)、気管支洗浄液・喀痰のPCR検査(ピンク)、便検体のPCR(薄茶色)、IgM抗体の検出(紫点線)、IgG抗体の検出(緑点線)を表しています。

文献

1.   Wikramaratna P, Paton RS, Ghafari M, Lourenco J. Estimating false-negative detection rate of SARS-CoV-2 by RT-PCR. medRxiv. 2020:2020.2004.2005.20053355.(査読前論文)
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.05.20053355v2

2.   Wyllie AL, Fournier J, Casanovas-Massana A, et al. Saliva is more sensitive for SARS-CoV-2 detection in COVID-19 patients than nasopharyngeal swabs. medRxiv. 2020:2020.2004.2016.20067835.(査読前論文)
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.16.20067835v1

3.   Kucirka LM, Lauer SA, Laeyendecker O, Boon D, Lessler J. Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction–Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure. Annals of Internal Medicine. 2020.
https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-1495

4.   Sethuraman N, Jeremiah SS, Ryo A. Interpreting Diagnostic Tests for SARS-CoV-2. JAMA. 2020.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2765837

 

Q2:PCR検査とはどんなものですか? 

A2:これまで(2020年3月12日現在)に用いられている新型コロナウイルス検査は、検査精度や効率性を考慮してreal time RT(reverse transcription)-PCR法という手法で行われることがほとんどです。PCRはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で、ウイルスの遺伝子を増幅して検出する方法です。詳しくは、大阪大学微生物研究所の説明を参照して下さい。

Real timeとは、検査途中でもウイルスの量(対象とする遺伝子のコピー数)の測定値を測ることができる方法であり、通常のPCR(途中での結果を見ることができない)よりも10倍から100倍に検出感度が高い、つまり少ないウイルス量でも測ることができる方法です。従って、迅速で、精度の高い検査が可能となります。

ちなみに、reverse transcription(RT)とは、新型コロナウイルスは、RNAウイルスなので、測定を行うためにRNAからDNAを作り出す過程を表しています。

新型コロナウイルス感染症が発生してからまだ日が浅く、簡易診断キット等の開発ができていないことや、より精度の高い検査法を実施することを目的にこの方法を標準方法として、検査が実施されています。