国際島嶼医療学講座の紹介


鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
国際島嶼医療学講座 嶽崎 俊郎
プロフィール


 この講座は地域の特性を生かしたユニークな講座です。まだ,スタッフの数も少なくパワー不足は否めませんが,共同研究を積極的に活用し,大学院生に魅力ある講座にすることが今後の活性化に繋がっていきます。そのためには,まず,自分ができるところの足場を固めることが大切で,島嶼地域で予防に関する情報提供を行いながら,地域での特性をふまえた疫学研究の有用性,重要性などを啓発していきたいと考えています。


 国際島嶼医療学講座(国際離島医療学分野)は平成13年4月に鹿児島大学医学部に新設された離島医療学講座(初代教授は園田俊郎先生)を基に,平成15年4月に鹿児島大学大学院医歯学総合研究科が設置されるに伴い,プロジェクト講座として設けられた講座です。鹿児島県には多くの島嶼(とうしょ)が存在し,有人離島数27は全国で4位,離島人口191,386人(平成14年)は全国1位です。この島嶼地域には特有の気候,風土,文化が存在し,人々の暮らし方を通じて病気の発生や健康に影響を与えています。また,医療面でみると施設や設備は年々良くなってきているものの,医師の確保や重症患者の搬送の難しさなど特別の対応も必要です。こういった島嶼の特徴をふまえた上で予防やプライマリーケアまで含めた地域包括医療の支援,島嶼をフィールドとした研究,医学生や大学院生への教育や実習を行うことを目的として設立されたのが当講座です。更に,国際的にも東アジアや東南アジア諸国を中心に国際共同研究や人材育成を,鹿児島の島嶼医療における特徴や経験を基に展開します。

自身の経験生かせる講座にやり甲斐感じる

 私は縁あって昨年11月よりこの講座の教授に就任しました。大学卒業後,鹿児島大学小児科で11年間の臨床医,および中国におけるJICAポリオ対策専門家としての経験を経て愛知県がんセンター研究所・疫学・予防部に移り,10年間余り在籍しました。ここで病院疫学研究(HERPACC)の他に,長崎県離島や中国,ボリビアなどにおけるフィールド研究,愛知県地域住民を対象にしたコーホート研究,中国や米国との国際共同研究,JICAの「地域がん予防対策」研修コースのプログラム調整等を行ってきました。国際島嶼医療学が開講されるにあたっては,これまでにない講座であることより,その方向性について随分議論されたと聞いていますが,これまでの私の経験がちょうどこれに近いものであったと考えています。そういった意味で,私自身もこの講座に大変興味があり,やり甲斐を感じています。このような経験を積むことができたのも,愛知県がんセンターを始め,疫学に関わっていらっしゃる多くの先生方のご支援やご指導のお陰であります。この場を借りて,改めて感謝申し上げたいと思います。

オリジナルデータ収集の重要性

 まだ,開設されたばかりの講座ですが,すでに,のべ88名の医学生を対象に離島の病院や診療所における実習,南西奄美諸島における長寿の要因に関する研究,中国やボリビアとのがん予防に関する国際共同研究,JICAの研修生(インドネシア,フィリピン)の受け入れなど実績を上げつつあります。私は愛知県がんセンター在職中に多くのことを学びましたが,その中でも,オリジナルのデータを得るために労力を惜しまず,注意深く,根気強く研究を計画し,継続することの重要性を強く感じました。まずは,中国とのがん分子疫学共同研究を継続しながら,鹿児島県島嶼地域におけるオリジナルデータを得るべく,がんのゲノムコーホート研究が行えるフィールドの設営とデータ収集に尽力したいと考えています。鹿児島の南西諸島から沖縄にかけては長寿者の割合が多い地域です。長寿者は言うまでもなく生活習慣病を予防した実践者でもあります。がんと長寿の研究を合わせて行うことより,新たな視点からの研究展開,さらに地域に貢献できる情報の提供ができるのではないかと期待しています。また,地方大学に求められているのは実践的な医師の育成であります。そのため,島嶼フィールドを教育と研究の場として積極的に活用することが,今後研究を展開する上でも重要であると考えています。

地域の特性を生かしたユニークな講座

 この講座は地域の特性を生かしたユニークな講座です。まだ,スタッフの数も少なくパワー不足は否めませんが,共同研究を積極的に活用し,大学院生に魅力ある講座にすることが今後の活性化に繋がっていきます。そのためには,まず,自分ができるところの足場を固めることが大切で,島嶼地域で予防に関する情報提供を行いながら,地域での特性をふまえた疫学研究の有用性,重要性などを啓発していきたいと考えています。これまでに4回,奄美大島や与論島にかけての島嶼地域を訪問しましたが,全く,違う時の流れを感じます。ここでの疫学研究がユニークな情報発信基地になるようにがんばっていきたいと考えていますので,今後とも日本疫学会の先生方のご指導,ご鞭撻の程,宜しくお願いします。