日本疫学会奨励賞を受賞して

2検査の正確さを比較するための指標の開発とメタ分析への応用


名古屋市立大学大学院医学研究科 健康増進・予防医学分野 鈴木 貞夫


 このたび,日本疫学会奨励賞に選考いただき,身に余る光栄と感謝申し上げます。受賞内容に関連した論文をJEに掲載していただけるとのことですので,詳しい話はそちらに譲ることにして,ここでは,ごく簡単な紹介と雑感を書かせていただきます。
 「2検査の正確さを比較するための指標の開発」が今回の受賞理由ですが,これは検査がどのくらい診断と一致しているかを比較するものです。ここでは検査,診断とも2値をとるものとします。「正確さ」は英語では主としてaccuracyと記載しますが,validという書き方も見ます。日本の新聞などではもっぱら「精度」と表記されますが,統計学での精度は違う概念を表します。このように用語に多少の混乱があり,きめ細かい定義が望まれます。
 検査の正確さは,2×2表を書き,通常「敏感度」と「特異度」のtrade-off関係のある2指標で表します。これを1指標にまとめるとするなら,オッズ比を使えばよいことは,疫学者であればすんなりと納得できると思います。これは横断研究の要因-疾患の関連の強さにオッズ比を使うことと本質的に同じことだからです。
 検査の比較の指標である相対オッズ比を検査X,検査Yの2枚の2×2表から求めるためには,表が独立である必要があります。一方,比較する検査は同じ人に適応したほうが,比較性には優れています。このジレンマを解決するのが条件付相対オッズ比です。疾病あり,なし,それぞれについて,個々人の検査Xと検査Yの結果の対応関係をMcNemarの2×2表に表して,それぞれのオッズ比の比を計算するだけのものです。何かコロンブスの卵のような話ですが,ジレンマの存在そのものに気づくことは案外難しいことだと思います。
 今回は,相対オッズ比のメタ解析で,従来の標準誤差=0としてt検定する方法は,明らかにメタ解析の本質から外れている,なにか正しい方法があるはずだという信念がそれを助けてくれたように思います。一日中検査の正確さのことを考える時期というのも,一生のうちにそんなにあることではありません。また,疫学者が生物統計学の論文を書くことにも,大きな躊躇があります。そういう意味で一連のこの仕事は,私にとって特別なものになりました。今回の受賞を励みに,さらに検討を加えていきたいと思います。ありがとうございました。

参考文献)
Suzuki S, Moro-oka T, Choudhry NK. The conditional relative odds ratio provided less biased results for comparing diagnostic test accuracy in meta-analyses. J Clin Epidemiol 2004 ; 57: 461-9.