日本疫学会奨励賞を受賞して

忍び寄る肥満の脅威


東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野 栗山 進一


 このたび日本疫学会奨励賞というたいへん名誉ある賞をいただくことになりました。学会理事長・吉村健清先生,学術総会長・徳留信寛先生ならびに関係諸先生方に深謝申し上げます。私は大阪市立大学医学部を卒業後,内科臨床を経て,永らく生命保険会社に身を置いておりました。そこで死亡を予測する因子の検討を重ねるうち,「肥満」というものがいかにその方の生命予後に影響するかを痛感いたしました。ご存知の通り,体格と生命予後の関連を世界で最初に報告したのは,米国メトロポリタン生命保険会社の「Build Study (1959年)」であるといわれています。私も肥満の研究を重ねるうち,1999年から東北大学公衆衛生学分野で勉強させていただき,2003年より辻一郎教授の格段のご高配により,同分野の教員としてお世話になっております。
 今回受賞対象となりましたのは,日本における肥満の疫学に関する研究成果についてです。全世界的にみて,肥満は近い将来「死亡の実際原因」の第1位になるであろうと予測されています。2000年の米国における死亡の実際原因の第1位は「喫煙」ですが,米国の喫煙については国をあげての禁煙化が進んでいます。したがって,喫煙は死亡の実際原因の第1位の座を近い将来他の要因に明け渡すであろうことは容易に推測できます。この喫煙に代わって健康に最も大きな影響を与えるであろうと危惧されているのが「肥満」で,World Health Organization (WHO)は肥満の流行を「globesity」と表現し,米国のみならず世界的に増加する肥満に警鐘を鳴らしています。アジアでは肥満者が少なく,肥満は大きな問題ではないと思われがちですが,奨励賞受賞講演でご紹介申し上げました通り,医療費やがん罹患という点からみると,日本で肥満がこれらに及ぼす影響は現時点で欧米と同程度であることが大規模コホートデータから示唆されております。従いまして日本の「肥満対策」は,今後の公衆衛生上の最重要課題のひとつであると考えられます。
 もちろん,このような大きな仕事は,1個人,1機関の努力だけでは到底達成できるものではありません。日本疫学会の諸先生方,関係者の方々のご協力とご理解,さらにはご支援を是非ともお願いしたいと存じます。どうぞ宜しくお願い致します。最後になりましたが,学位取得から教員の任用に至るまで,親身なご指導,ご支援頂いております辻一郎先生に,この場をお借りしまして心より感謝申し上げます。