日本疫学会奨励賞を受賞して

疫学を「広げる」−社会における健康情報


京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野
中山 健夫


 このたび吉村健清理事長,上島弘嗣学会長はじめ諸先生方のご支援を賜り,奨励賞を頂きました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。私は1987年に東京医科歯科大学を卒業し,臨床研修後,母校の難治疾患研究所疫学部門(田中平三教授,現独立行政法人国立健康栄養研究所理事長)に着任しました。大学とフィールドの往復の中で,現実社会で生きている人間を対象とする疫学の魅力,その基盤となる地域,行政の方々とのコミュニケーションの大切さを知ったことは私にとって大きな財産となりました。脳卒中のコホート研究で学位を得た後,UCLAのRoger Detels教授のもとでフェローとして過ごしました。帰国後は国立がんセンター研究所(山口直人部長,現東京女子医科大学教授)に異動し,ナショナルセンターの大きな取り組みに触れ,また名大の玉腰暁子先生を主任とする倫理に関する研究班では疫学の社会性に関心を深めました。厚生労働省の瀬上清貴先生(現参事官),柏樹悦郎先生(現関西空港検疫所長)のご支援を頂いた厚生科学「疫学研究の行政的評価に関する研究」は,疫学のアカウンタビリティを見直す貴重な機会でした。2000年に京大に開設された現分野(福井次矢教授,現聖路加国際病院副院長)に移り,疫学研究を続けると共に,その考えを応用して社会における医療・健康情報に関する新しい領域に携わってきました。特に主要疾患の診療ガイドライン作成プロジェクトには広く関与する機会を頂き,現在では医療・健康情報の集約と更新,社会における流通と適切な利用,非専門家も含む関係者間での共有に向けた環境整備は私の関心の中心となりつつあります(厚生労働科学研究「EBMを志向した『診療ガイドライン』と医学データベースに利用される『構造化抄録』作成の方法論の開発とそれらの受容性に関する研究」「『根拠に基づく診療ガイドライン』の適切な作成・利用・普及に向けた基盤整備に関する研究」,財団法人日本医療機能評価機構Mindsなど)。
 このような取り組みは伝統的な「疫学」ではないかもしれません。しかし,私が手探りながらもこの新しい領域に進んで来ることができたのは,「疫学」を通して学んだ多くのことが力を与えてくれているからと確信しております。多くの方々のご厚誼に報いるべく,微力ではありますが疫学と新しい領域の発展に力を尽くしていきたいと願っております。今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。