日本疫学会奨励賞を受賞して

すばらしい出会いに感謝


北海道大学大学院医学研究科予防医学講座老年保健医学分野
小橋 元


 この度は,日本疫学会奨励賞という大変に名誉ある賞をいただき,どうもありがとうございました。受賞テーマの「妊娠中毒症の発症関連要因に関する症例・対照研究」は,多くのすばらしい先輩方・仲間と出会い,そしてご指導をいただいたおかげで成し遂げられたものです。今,あらためてその幸運に深く感謝する次第です。
 私は,学生時代から不定愁訴,疾病が発症する前の生活習慣やストレス,東洋医学など,全人的医療に興味があり,バレーボール部創部の傍ら友人達と多少の勉強会を行っておりました。卒業後は,母校の産婦人科教室へ入局しました。「疾病が発症する前に」というキーワードでどんどん患者さんの時間を過去に遡っていった結果,母子相互作用や胎内環境,すなわち産科にたどり着いたのです。「妊婦検診や母親教室でたくさんのお母さんたちとお話しすることで少しでもみんなの幸せに貢献できたら…」などと思っていました。また,不定愁訴という視点から,婦人科にも大変興味がありました。中絶,不妊,出生前診断など,倫理社会的問題を考えさせられる仕事であることも産婦人科の大きな魅力でした。もちろん,いろいろな悩みを持ちながら女性として一生懸命に生きている人たちが大好きでしたので,少しでもその役に立ちたいという気持ちもありました。
 卒業後5年近くの間,産婦人科医としてそれこそ昼も夜もなく無我夢中で働きました。この間,藤本征一郎教授にはもちろんのこと,北大産婦人科の先輩方には本当に可愛がっていただきました。その後,藤本教授のご高配で,大学院生として近藤喜代太郎教授の公衆衛生学教室に出入りさせていただきました。今回の受賞テーマは,まさに私の研究者としての原点ともいえる仕事で,藤本・近藤両教室をはじめとするたくさんの先生方の温かいご理解と懇切なご指導の賜物です。本当にありがとうございました。
 早いもので,縁あって疫学の世界に入れていただいてもう10年以上になります。当時,産婦人科臨床と遺伝と労働衛生をほんの少しかじっただけで,元気だけが取り柄の素人同然であった私を,本当に温かく迎えてくださり,ここまで育てていただいた日本疫学会の皆様に心より感謝を申し上げます。もとより浅学非才の身ですが,これからも初心を忘れず,患者さんの顔が見える疫学研究,丁寧な疫学研究を心がけて参りたいと存じます。真っ直ぐな気持ちで一生懸命精進を続け,皆様に少しでも恩返しが出来たら幸いです。今後ともご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。