書評

「しっかり学ぶ基礎からの疫学」 柳川 洋,萱場 一則 監訳,南山堂

(原書 Essential Epidemiology W A Oleckno 著)


徳島県保健福祉部健康増進課 佐野 雄二


 本書を「しっかり学ぶ」というおよそ専門書らしからぬ,親しみやすい表題に惹かれて手にした方も多いと思う。原書の題はEssential Epidemiologyだが,米国の書評でも既刊の学術書と比べて理解しやすい記述が取り上げられ,「excellent and practical overview of epidemiology」と評されている。
 本書の性格を一言で表すと,「疫学を系統的に学ぼうとする人にとって,待望のオーソドックスな教科書」と言うことができよう。原著者の25年におよぶ疫学の教育経験に基づいて,初学者がわかりにくい点について,平易な説明がなされている。
 本書の特徴のひとつは,随所に豊富な実例と図表が掲載されており,具体的に理解が深められるように工夫されている点である。特に,私のような公衆衛生現場の者にとってありがたいのは,最終の14章で疫学の応用として,疾病の異常発生の調査について,流行曲線の分類などを含めて,解説が行われていることである。近年,感染症の集団発生など健康危機管理の科学的な対応の重要性が叫ばれている。しかし,この観点から,最近の疫学の教科書で十分な説明がされているものが極めて少なく,苦慮していたところであった。
 特徴の2点目は,疫学用語の理解にかなりの力を注いでいることがあげられる。本文での丁寧な説明に加えて,各章の最後には「新しく学ぶ用語」が,また巻末には「用語集」がまとめられている。疫学用語や概念を整理し把握するのに有用であり,本書で学ぶことによって,研究指導者との議論や学会での質疑の際に耳慣れぬ用語や概念に戸惑うといったことはなくなると思われる。
 特徴の3点目は,全ての章について,(1)学習目標,(2)要約,(3)導入,そして本文の後に,(4)まとめ,(5)新しく学ぶ用語,(6)演習問題,(7)文献という構成になっているユニークな点である。これは,原著者が自らの授業で使うことを意図して執筆したことによるものであり,正しく疫学のコースの最適の教科書である。これまで,系統的な疫学のコースを受講する機会のなかった人にとっても,この本で独習することによって,コースを履修するのに匹敵する成果を得ることができる。
 なお訳者は我が国の気鋭の疫学者の方々であり,正しく疫学を「しっかり学ぶ」ための教科書の出現と言えよう。