ある研究室の一日

5つのモットーを掲げ人類の幸せに貢献


山梨大学 大学院医学工学総合研究部 社会医学講座
近藤 尚己
プロフィール


 教育面では,特に力を入れていることに,3年次生の公衆衛生学系統講義の後半に行われる討論会があります。喫煙対策,国際保健医療協力,胎児条項など,時代に合った8つの議題についてディベートを行っています。準備から運営までを学生に自主的に行わせ,時には涙ながらに最終弁論を行う班もあるほど,学生たちは真剣に取り組んでくれます。


 私たちの講座は,人類の幸せに貢献できる医学研究,医学教育を遂行することを目標に,対人保健サービスに関するあらゆる分野に関心を向け,健康弱者の立場で,教室員が一致協力して課題に取り組むことを方針としております。特に,国際的な視野とPublic Health Mindをもった医師養成のための教育,および地域住民のニーズにこたえる研究と支援を主な柱として,5つのモットー(教室員の和を大切にする,教育に力を入れる,研究のモチベーションは住民から,研究の評価を受ける,国際的な視野での教育研究)を掲げています。山梨医科大学と山梨大学の合併,大学院大学設置,そして国立大学独法化をばねに,ここ数年間で,本講座はその構成員を大幅に増やし,現在は,山縣然太朗教授をはじめとする教官4名,大学院生33名(博士課程23名,修士課程10名)のほか,研究生,実務担当を含めの総勢47名で構成されております。
 私たちの講座の主な研究テーマをご紹介させていただきます。

    1.ゲノム疫学研究
     個人の素因にあった生活習慣病の予防法の確立(テーラーメード予防医学)を目指して,遺伝子レベルでの遺伝要因及び生活習慣との交互作用の解明を行っております。最近はEpigeneticsの概念を導入した実験を開始し,新たなゲノム疫学の構築をめざしています。また,遺伝子情報のような先端技術と社会との接点に関する研究を行っており,現在新たなプロジェクトに向けて準備を進めています。

    2.地域保健医療研究

      @ 母子保健研究
       本講座とその歴史をほぼ同じくする塩山市母子保健コホートは,今年で17年目を迎えた,同市の出生児の悉皆調査です。累積登録児数約5,800名にのぼる同コホートからは,幼児期の生活習慣と思春期肥満との関連などを発表してきましたが,まだ解析されていない部分も多く,更なる原著論文の出版に向けて準備を進めています。
       また,山縣教授を主任研究者とする厚生科研「地域における新しいヘルスケア・コンサルティングシステムの構築に関する研究」班では,健やか親子21の推進を目指し,その公式ホームページの運営をベースに,次世代の母子保健マーケティング手法の開発を目指しております(ホームページ:http://rhino.yamanashi-med.ac.jp/sukoyaka/, メーリングリスト:http://rhino2.yamanashi-med.ac.jp/torikumi-doc/ml_guidance.html)。

      A 高齢者の健康寿命に関連する要因に関する研究
       山梨県の健康寿命がトップクラスであったことを受けて,2003年秋よりスタートした県内の自立高齢者600名で始まったコホートは,アウトカムイベントが高頻度となる高齢者集団という特徴を生かして,小規模ながら効率的な収穫を得ることを目指しており,このほど第1回目の追跡を終えました。「無尽」や「組」の慣習が色濃く残る山梨県において,高齢者の自立生活維持に寄与する地域要因を明らかにし,どことなくマイナーで地味な県,山梨を元気にするためのお手伝いができればと考えています。

    3.社会疫学研究
     武田康久助教授を中心に,近年その重要性が認識されつつある社会疫学分野の研究を進めています。日本のナショナルデータを用いて健康の社会的規定因子に関する解析を実施しており,これまで社会的役割と健康行動との関連などについて発表してきました。

 教育面では,特に力を入れていることに,3年次生の公衆衛生学系統講義の後半に行われる討論会があります。喫煙対策,国際保健医療協力,胎児条項など,時代に合った8つの議題についてディベートを行っています。準備から運営までを学生に自主的に行わせ,時には涙ながらに最終弁論を行う班もあるほど,学生たちは真剣に取り組んでくれます。
 また,2001年からこれまで4回の信州大学社会環境医学講座との高速光通信を利用した双方向の合同講義にチャレンジしています。信州大学は遺伝カウンセリングのロールプレイを学生が行い,山梨はディベートを行います。互いに学生が質疑など討論を活発に行っています。

 最近の新しい動きとして,大学発ベンチャー「山梨地域医療研究所:プリメドやまなし」の設立があります。行政や企業に対する予防医学,疫学のコンサルティング,健康関連教材・システム開発,疫学調査の委託,講演会開催といった業務を手がける大学発ベンチャー企業です。本講座の薬袋淳子社長のもと2003年3月に設立されました。

 さて,こんな私たち社会医学講座の1日をお伝えします。

「ある社会医学講座の一日」

 朝8時。ウィークデーは欠かさず行う輪読会が始まります。最近出版された疫学,公衆衛生学,生物統計学関係の洋書を,輪番制で決められた担当者を中心に1日30分,3〜4ページ進むことを目標に行っています。現在の課題図書はAE. Shamoo, FA Khin-Maung-Gyi “Ethics of the Use of Human Subjects In Research”です。
 朝9時。水曜日の午前中にはゲノムグループの “Genetics and Public Health in the 21st Century”の勉強会が行われています。
 12時15分,昼休み。「和」をモットーとする本講座では昼食は医局で数人が集まって,NHKドラマを見ながら弁当を頬張ります。
 午後6時。水曜日はジャーナルクラブ。4つの担当班が順番に最新の疫学論文を1時間かけて解説し,それを元に討論します。クリティカルレビュー,疫学デザイン,統計解析の実際について,大変勉強になる時間です。
 午後7時,ジャーナルクラブの後は有志による遺伝学の学習会があります。遺伝カウンセラーを目指す大学院生の補講,といった意味合いから始まりましたが,便乗して多くの人が参加しています。
 木曜日は午後6時よりカンファレンス。スタッフ,学生は原則として全員参加が求められます。通常2名が,現在の研究課題に関連した発表を行い,討論します。また山縣教授,武田助教授からのレクチャーも適宜いただきます。現在継続中のレクチャーは,山縣教授による「アクセプトされる英語医学論文を書こう!」です。来年度は英語の原著が大量生産される予定です(?)。
 午後8時,カンファレンスの後は何人かで近くの料理屋で乾杯。1杯のつもりが2杯,2杯が3杯・・・金曜の朝輪読会の出席率低下の主な要因です。
 夜9〜10時,医局の電気は消えます。が,それ以降も大学院生室の明かりは煌々と照らされています。勉強もほどほどに!

「ある社会医学講座の一日 〜週末編1〜」

 今日は,ほぼ全てのメンバーが社会医学講座員である,大学公認サークル「野外活動部」の活動日です。朝9時,基礎研究棟の玄関でインストラクターのハングリー☆K氏が大声で指揮をとります,「皆さーん,野菜を切ってきましたか?」「忘れたー」。活動場所は,武田信玄の史跡「信玄堤」です。活動内容は「ダッチオーブンで丸ごとローストチキン」。参加者は約30名。木立の間にはハンモック。なべの上をフリスビーが飛び交う中,わいわいと料理が進みました。午後1時,完成したローストチキンは,30名の飢えた部員たちにより一瞬にして食べ尽くされ,そうして見事な鶏ガラとなった1羽の鶏は更になべに入れられ上質のチキンスープが完成。炭火で炊いた栗ご飯,焼き芋,バーベキュー,ワイン3本等々もきれいに平らげられました。「皆さん,今日のレシピ,覚えましたか?」「食べる楽しみだけは覚えました。」「・・・次回は地中海版串揚げ“オイルフォンデュ”でお洒落に決めましょう」「わーい」「また太っちゃうヮ」。

「ある社会医学講座の一日 〜週末編2〜」

 今日は,ほぼ全てのメンバーが社会医学講座員である,大学公認サークル「書道部」の活動日です。今日は間近に迫った展覧会の作品を仕上げようと,4名が,M師範の下に集いました。医局のテーブルを隅に寄せ,床の上でそれぞれの作品を書き上げます。「ここの“はらい”がうまくいかないの」「この渇筆いいねー」。さて,いざ展覧会の日。自分たちの作品の仕上がり具合を気にかけ,いそいそと出かけました。しかしそこには最大の難関が。受付係は若手ながら立派な師範格の方。その前におかれた達筆なサインの並ぶ芳名帳。「オウ,ワタシ,筆ジャ書ケマシェン」・・・いきなり日系外国人になるメンバーでした。

 皆さま,こんな山梨大学社会医学講座に,一度遊びにきませんか?


忘年会での一コマ(2004年12月)