研究班紹介

「Minds医療情報サービス」ご紹介


財団法人日本医療機能評価機構・医療情報サービスセンター長
東京女子医科大学・衛生学公衆衛生学(U)・教授
山口 直人

医療情報サービスセンター・事業調整課長 
星 佳芳



1.Mindsの概要

 診療ガイドラインは日常の診療に関する諸問題に対して,推奨という形で標準的な回答を提示するものであり,長い歴史を持っている。古くは,その領域のいわゆる「大家」が集ってコンセンサスという形で指針を提示する形式が多かったが,近年,「根拠に基づく医療」すなわちEBMが重視されるにいたって,診療ガイドラインもEBMの考え方に基づいて,エビデンスをベースにすべきであるという認識が高まってきた。これを受けて厚生労働省は,質の高い診療ガイドラインの整備が我が国の医療の質を高めるという認識の下に,平成12年度から,厚生労働科学研究費補助金によって,主要な疾患について診療ガイドライン作成の補助を開始して今日にいたっている。研究成果である診療ガイドラインが報告書という形で,あるいは成書として公開されつつあるところであるが,このように整備されつつある診療ガイドラインは,作成を担当した学会の学会員のみでなく,広く全国の医師その他の医療提供者が活用して初めて我が国全体の診療の質の向上に貢献する。また,医療提供者のみでなく,同様の内容をわかりやすく解説して患者,一般国民に提供することで,医療提供者と患者・国民が,最新の診療に関する情報を共有できることになり,両者が共通の知識,情報をベースにして,その上で,患者のおかれている固有の状況,患者の希望に基づいて,十分に納得の行く診療方法を合意の上で選択することが可能になるはずである。このような認識に基づき,財団法人日本医療機能評価機構では,平成14年度から厚生労働科学研究費の補助を受けて,診療ガイドラインと関連情報を提供する医療情報サービス事業を開始することとなった。平成14−15年度と準備作業を進めてきたが,平成16年5月からはインターネット上での一般公開を開始した(http://minds.jcqhc.or.jp)。本サービスの愛称Mindsは「医療情報ネットワーク提供サービス」の英語訳である「Medical Information Network Distribution Service」の頭文字を取ったものである。語呂合わせでもあるが,心のこもった情報提供を心がけたいという関係者一同の願いもこもっている。
 日本医療機能評価機構が本サービスを進めるに当たって,第一に重視するのは,事業の中立性,公平性である。日本医療機能評価機構は,医療提供者,患者・国民,行政のいずれとも距離をおく第三者の立場で活動を進めてきており,Mindsを推進するに当たっても,医療提供者側の代表のみでなく,患者・国民の代表,学識経験者など,広く意見をいただいて,公平性,中立性を留意した運営を進めている。情報提供に際しては,科学的に考えて充分に合理性が高いと考えられる診療方法を提示できるように配慮している。掲載する診療ガイドラインは,診療ガイドライン選定委員会(委員長:福井次矢京大教授)において,その信頼性を吟味して選定されたものである。また,可能な限り科学的根拠を明示することを重視し,診療ガイドライン本文のみでなく,ガイドライン作成時に根拠とした論文についてもエビデンステーブル等の内容を掲載している。さらに,診療ガイドライン作成後に公表された,新しい論文については,医学文献評価選定委員会(委員長:森實敏夫神奈川歯科大内科教授)において,クリニカルクエスチョン単位で重要なものを評価選定し,全国のEBM専門家のご協力を得て,Mindsアブストラクトという構造化抄録の形式での公表を進めている。

2.EBMと疫学

 さて,診療ガイドラインを作成する上で,臨床家とともにEBM専門家の役割が重要であるとの認識が高まっている。EBM専門家の多くは,疫学,特に臨床疫学を十分に習得した臨床家であるが,徐々に公衆衛生学領域で活躍する疫学者の中からEBMに関わる人が増えつつあることは注目に値する。臨床を基盤とするEBM専門家は,各自の専門領域を持っているが,疫学を基盤とする場合は,広くEBM全体に関わることが可能であり,疫学専門家の立場で臨床試験,観察研究を支援することで,我が国の医療の質の向上に大きく貢献できる可能性がある。
 Minds医療情報サービス推進の中心を担っているのも,臨床をバックグラウンドとするEBM専門家と疫学を本来の基盤とするEBM専門家の双方であり,本プロジェクトの推進を通じて,双方が一体となり切磋琢磨して,EBMのあり方を真剣に検討している。例えば,本サービスが独自に作成を進めているMindsアブストラクトの内容については,約100名の協力者が編集作業に参加しているが,その中核もEBM専門家である。Mindsアブストラクト作成に当たっては,クリニカルクエスチョン単位での文献検索と,重要な文献の選択を行い,特に重要な文献については,疫学的な視点と臨床的な視点からの吟味を行った上で,厳選された論文についてMindsアブストラクトの作成を進めている。このMindsアブストラクト作成の中核を担う文献レビュアーを広く募集中であり,日本疫学会会員の先生方からの多数のご参加をお願いしている。今後,さらに多くの先生方の協力を必要としており,一人でも多くの疫学専門家の結集をお願いしたい(お問い合わせは,メールアドレスまで)。

3.Mindsの今後の展開

 現在,医療提供者向け情報として,クモ膜下出血,喘息,糖尿病,脳梗塞の4疾患について,診療ガイドラインと,その基となった関連文献に関する情報提供を行っている。平成16年度中にはさらに,肺癌,乳がん,胃潰瘍,急性心筋梗塞,脳出血,急性膵炎など,9疾患の掲載を開始する予定で準備を進めている。また,前述のMindsアブストラクトについては,平成16年度中に500論文程度を掲載する予定で,準備を進めている。一般向けの情報提供も開始する予定である。
 多くの臨床医,国民・患者に広く事業を知っていただくことを目的に,年に一度,EBM研究フォーラムを開催している。今年は,10月16日(土)13時より日本医師会館にて,「第3回EBM研究フォーラム」を開催する予定である。今年度のフォーラムでは,新規に公開される診療ガイドラインの概要を,作成に携わった先生方から紹介いただく予定である。また,フォーラム後半では「EBMにおけるクリニカルクエスチョンの重要性について」と題してシンポジウムを企画している。
 この事業の今後の方向性については,日本疫学会会員のご意見を大いに参考にさせて頂きたいと考えている。Mindsトップページ・右下の「お問い合わせ」欄をご利用になり,ご意見をお寄せいただきたい。