日本疫学会奨励賞を受賞して

世の中に正しい情報を整理して伝えられるように


国立保健医療科学院技術評価部 横山 徹爾


 このたび,日本疫学会奨励賞という大変に名誉ある賞をいただくことになり,関係諸先生方に深く感謝申し上げます。

 受賞対象となった研究は,血清ビタミンC濃度が脳卒中罹患リスクと強く逆相関することを報告した新潟県新発田市における2つのコホート研究の成果です。ベースライン調査は1977年と1982年に,現在は独立行政法人国立健康・栄養研究所理事長の田中平三先生を中心とする諸先輩方が行ったものであり,私はそのご指導のもとで追跡調査と結果のまとめに関わったに過ぎません。そういう意味で,今回の受賞はこのコホート研究に関わった多くの先生方の努力の集大成に対するものであると思っています。

 ビタミンCの血中濃度を調べたコホート研究は世界でも数えるほどしかありませんが,いずれも脳卒中リスクと強い逆相関を示しており,田中先生の先見の明にはあらためて頭の下がる思いがします。欧米では現在,ビタミンC投与による循環器疾患等の予防効果を評価するための大規模な介入研究が複数進行中です。最終的に介入研究でどのような結論が出るかはまだ分かりませんが,その結果を理解するうえで観察研究の積み重ねは重要だと思います。

 ビタミンCだけでなく,さまざまな食品や微量栄養素と疾病の関連についての疫学研究等の結果が報道され,世の中に健康情報があふれかえっています。この研究を論文発表した直後にも,欧米のいくつかのマスメディアから取材を受けるという貴重な体験をさせていただきました。誤解されやすいテーマを(ビタミンCサプリメントが脳卒中を予防すると短絡的に誤解されないように),英語で,いかに正しく伝えるべきか苦労しました。観察された事実を正確に伝えることに加えて,今までに何がどこまで分かっていて,研究結果をどう解釈したらよいのかを分かりやすく整理して世の中に伝えるのもまた,疫学者の重要な役割の一つではないだろうかと,その時に感じました。

 新発田市のコホート研究は,血中ビタミンC濃度を評価した数少ない貴重な研究です。諸先輩方の努力の結果として得られた成果をさらに整理して,世の中に伝えて役立てられるように努力していきたいと思います。今後ともご指導賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。