学会報告
第12回地域がん登録全国協議会総会
研究会を終えて
福井社会保険病院
藤田 学
地域がん登録全国協議会第12回総会研究会を2003年9月12日に福井県福井市「福井県国際交流会館」において開催致しました。北は北海道から南は沖縄県まで,183名の方々に参加していただきました。
今回の研究会では「地域がん登録の利用」をメーンテーマとし,地域がん登録を臨床・疫学・行政にどのように利用できるかを討論していただき,利用方法の普及を通じて地域がん登録への関心を深め,ひいては地域がん登録の届出精度の向上を目指すことを目的としました。
教育講演1として,国立がんセンター研究所がん情報研究部の金子聰先生に「がん診療拠点病院における院内がん登録の整備」というタイトルで講演していただきました。2002年3月より地域がん診療拠点病院の指定が始まり,その指定条件の1つに院内がん登録の整備が義務化されました。国立がんセンターにがんサーベイランス解析室を設置して地域がん診療拠点病院における院内がん登録や地域がん登録の整備を担当することになるとのことでした。少なくとも地域がん診療拠点病院からの地域がん登録への届出は期待できそうでした。
教育講演2では「ヘリコバクターピロリ感染と胃がん」という題で,福井医科大学第2内科の東健先生にご講演いただきました。ヘリコバクターピロリ感染における胃がん発生のメカニズム,遺伝子型によって胃がん発生率が違うなどの報告があり,興味深い内容でした。
特別講演は国立がんセンターの金子昌一郎先生に「生活習慣とがん」という題で講演していただきました。喫煙・飲酒・食習慣などの生活習慣と胃がん・肺がん・乳がんなどがどのように関連しているかを示していただき,がん予防にはどのように生活習慣を変えていけばよいかが示されました。またこのような研究のためにはがんの罹患率の計測が必須であり,質の高いがん登録の整備の必要性が強調されました。
シンポジウム「地域がん登録の利用について」では,臨床的な利用方法として「地域がん登録を利用した大腸がん検診の評価」(松田一夫先生),「内視鏡検査の精度管理」(細川治先生)の2題,疫学的な利用としては「環境と発がんの関係―地理情報解析システムを使って−」(三上春夫先生),「住民検診とがん登録のリンケージ」(岡本幹三先生)の2題,行政的な利用方法として「がん対策推進のための地域がん登録の活用」(津熊秀明先生),「地域がん登録の行政への利用(アンケート調査より)」(富士光恵先生)の2題の計6題の発表がありました。
個別発表終了後,がん登録の利用方法を広めることにより,一般の臨床の先生方に地域がん登録の必要性をアピールすることが地域がん登録の精度向上に役立つかどうかなどについて,総合的な討論がなされました。
ポスター演題は9題の応募があり,その中から岡本幹三先生の「高血圧症とがん罹患の関連性に関する後ろ向きコーホート研究」が最優秀賞に選ばれました。
前日の実務者研修会では「院内がん登録の整備と地域がん登録」をテーマとして,福井県立病院,福井赤十字病院,山形県立がん・生活習慣病センター,大阪成人病センターからそれぞれの病院における院内がん登録状況が報告されました。近県の地域がん診療拠点病院で院内がん登録を担当されている方を交えて,院内がん登録を整備するにあたってのいろいろな問題点が議論されました。その後自由討論に移り,まず国立がんセンターの祖父江先生から,がん登録普及のために国立がんセンターがやろうとしていることが報告され,それに対する意見・要望などが出され,終了時間の延長が必要なほど熱心に討論が行われました。