平成14年度日本疫学会奨励賞を受賞して
平成14年度日本疫学会奨励賞を受賞された関根道和先生と高橋秀人先生に受賞の喜び,今後の抱負について述べていただいた。受賞の対象となった研究課題は次のとおり。
関根道和「3歳時の両親の肥満・生活習慣と小児肥満に関する追跡研究」
高橋秀人「日本人肺癌死亡の年齢・年次・出生コーホート解析,1960-1995」
今後は小児期のメンタルヘルスにも焦点
富山医科薬科大学
関根 道和
この度は,栄えある日本疫学会奨励賞をいただくこととなり,大変恐縮しております。
私は,大学を卒業後,横浜市立大学医学部附属病院にて内科・精神科・救命救急を中心に研修し,その後県立病院にて内科医として勤務後,現在の講座にて疫学の調査研究に従事しております。
今回,奨励賞をいただくことになりました研究は,富山県内在住の平成元年度生まれの児童を対象とした出生コホート研究の中から,特に3歳時という人生早期の社会環境や家庭環境,生活習慣のその後の小児肥満への影響を中心とした研究ですが,この出生コホート研究は,疫学会の多くの先生方の協力の下に成り立っている研究であり,私はその一部を担当しているに過ぎません。ただ,人生早期における社会環境,家庭環境,生活習慣の,疾病予防における重要性は以前より欧米では指摘されていたことではありますが,本邦ではまだこの領域における疫学的根拠が十分とは言いがたく,この点が評価の対象となったのではないかと自分では推察しております。
ところで,小児保健の領域では小児肥満の増加は大きな問題のひとつですが,もう一つの問題として小児期のメンタルヘルスの問題があります。特に不登校に関しては,現在,小中学生の不登校児童生徒数は約14万人で,10年前と比較して人数で約2倍,少子化による児童生徒数の減少を考慮に入れると率で2.5倍に増加しています。私は今後の研究の方向性として,小児肥満という「からだの健康」とともに不登校などを含めた「こころの健康」の問題にも焦点を当てた研究をすすめていきたいと考えており,最終的には,人生早期からの総合的な健康増進のための疫学的根拠を提示して行ければと考えております。
まだまだ粗削りな研究ではございますが,この賞をいただきましたことを励みと致しまして,日々精進して参りたいと存じますので,今後とも御指導・御鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。この度は誠にありがとうございました。重ねて御礼申し上げます。
多くの分野で必要とされている疫学を実感
筑波大学社会医学系
高橋 秀人
このたびは栄えある日本疫学会奨励賞を受賞できましてこんなに名誉なことはありません。まずは厚く御礼申し上げます。賞の名に恥じないように今後ますます精進しなければと思っている次第です。
数学畑で学び育ってきた私が医学の世界に入ってきた当初,以前は理論的な研究ばかりに触れていたせいもあって実学としての医学研究の進め方などに戸惑いました。しかし,筑波大学という講座制を取り払った環境の中で,社会学系のみならず医学全般の研究者,大学内外の医療従事者との交流を通し,「疫学的」「統計学的」な分野に対するニーズに大いに啓発され また励まされてここまでやってこられました。私が今回受賞できたのは,このようにかげひなたになってお力添えいただいた多くの方々のおかげだと思っております。この場をお借りして御礼申し上げます。
今回私の行った数学的モデルを用いた研究が評価いただけたということは,当学会ニュースレターNo20で廣畑 富雄名誉教授が言われている「多方面からの疫学会への参加が望まれている」ということのひとつの現われなのかもしれないと受け止めています。医学は間口が広く,どのような背景をもった研究者であっても貢献できる大きな分野なのだと思います。特に疫学は,臨床疫学,薬剤疫学,栄養疫学,獣医疫学,運動疫学など○○疫学というように多方面へ応用され,現在多くの分野で必要とされている学問であると実感しています。加えて昨今のIT(情報技術)の進歩などの生活環境の変化や倫理規定の策定,新興感染症の問題などの社会情勢変化の中で,疫学や疫学会は今後さらに大きく発展することが期待されているのだと思います。
このような期待に対し,自分が今後どのように貢献できるのかを考えると身が引き締まる思いです。今回賞をいただいたことを誇りに,今後の疫学会の発展に寄与できよう努力したいと思います。今後もよろしくお願い申し上げます。