第13回日本疫学会学術総会の報告


第13回日本疫学会学術総会会長 古野 純典


 第13回日本疫学会学術総会を平成15年1月24〜25日の2日間,福岡市の明治生命ホールで開催させていただきました。総会登録者は500名に達しませんでしたが,名誉会員等の招待者を含めると参加者総数は500名を超えました。多くの方々にご参加いただき,心より感謝しております。「臨床研究と疫学」を主題として,疫学の裾野を広げることを学術総会の目標にしました。そのために,総会登録費の低額化を図り(事前登録一般7,000円,学生3,000円),4名の欧米研究者による特別講演を設け,会長講演を取りやめました。
 特別講演第1部(24日午前)では,Tom Rohan (Albert Einstein Med Coll)が乳がんの分子疫学的研究の成果について,Silvia Franceschi (IARC)が子宮頚がん関連ウイルスHPVの世界的分布について発表しました。Silviaの講演は持ち時間の20分を大幅に超えてしまい,座長の津金昌一郎先生(国立がんセンター)には大変ご迷惑をおかけました。イタリア人の性格に免じてお許しいただきたいと思います。特別講演第2部(24日午後)では,Emer Shelley (Ireland DOH)が欧州の循環器疾患の動向について,Allen McCutchan (Univ of California San Diego)がエイズの統合的研究について講演しました。座長の上島弘嗣教授(滋賀医科大学)には的確なまとめをしていただき,感服いたしました。計画ではRichard Logan (Nottingham Univ)が欧州における消化器がんの動向について講演する予定でしたが,直前になって来日できなくなり,急遽Silviaに特別講演をお願いした次第です。プログラムの変更を改めてお詫びいたします。
 今回は,200題の応募演題をいただきました。学術委員会においてシンポジウム発表8題,一般口演発表21題,ミニ口演発表44題とポスター発表127題を選定しました。ミニ口演は,口演発表の演題数を増やすための工夫で,発表時間5分の口演に示説を併用したものです。短時間でも聴衆を魅了する発表が行われ,十分に機能したと考えております。
 シンポジウム「臨床医学と疫学」では,林純教授(九州大学)の司会で佐藤眞一(大阪府立健康科学センター),山田芳司(岐阜県国際バイオ研究所),田中隆(大阪市立大学),斎藤友博(国立成育医療センター)の各氏がそれぞれ心筋梗塞再発の臨床的危険因子,PCI後再狭窄の遺伝子多型,慢性肝疾患超音波所見と肝がん及び多施設臨床試験実施の諸問題について発表しました。シンポジウム「生活習慣と疾病予防」では,深尾彰教授(山形大学)の司会で石川鎮清(自治医科大学),徳留信寛(名古屋市立大学),山岡和枝(国立保健医療科学院),玉置淳子(北海道大学)の各氏がそれぞれ身体活動に関するコホート研究,トライアスロン参加者の健康度,糖尿病予防のRCT及び行動変容について発表されました。
 学術総会期間中には,理事会,評議員会,総会などの関連行事も無事行われました。関根道和(富山医科薬科大学)と高橋秀人(筑波大学)の2氏が今回の奨励賞を受賞され,「3歳時の両親の肥満・生活習慣と小児肥満に関する追跡研究」及び「日本人肺癌死亡の年齢・年次・出生コーホート解析,1960-1995」の題目でそれぞれ受賞講演をされました。
 学術総会の前日には,九州大学医系キャンパスにおいて疫学セミナー「疫学・統計の基本と実践」を開催しましたが,200名余りの参加がありました。Emer Shelley,Tom Rohan及びAllen McCutchanが記述疫学,コホート研究,症例対照研究ならびにRCTの基本的事項について講義し,大島明(大阪府立成人病センター),津金昌一郎(国立がんセンター)及び笹月静(国立がんセンター)の3氏が日本での具体例を用いて疫学の方法を解説しました。統計ソフトSASとStataの利用方法について実用的な話を予定していましたが,時間不足のため概要説明だけになりました。配布資料「疫学・統計の基本」に具体的な使用例と結果の見方をわかり易く説明しておりますので,セミナーの目的は達成されたと考えております。
 第14回学術総会は深尾彰教授(山形大学)が平成16年1月22〜23日に山形市において開催されます。一層のご盛会を祈念し,会員の皆様に再びお会いできることを楽しみにしております。