トピックス

たばこ対策枠組条約
Framework Convention for Tobacco Controlとは


国立保健医療科学院疫学部 簔輪 眞澄
プロフィール


 枠組条約とは,基本的な構成と意志決定メカニズムを定めた条約であり,具体的な義務は枠組条約の議定書で展開されるような条約である。たとえば,気候変動に関する国際連合枠組条約では究極の目的や先進国の義務が定められており,具体的な拘束力のある数値目標などは議定書で決められる(この議定書の一つが,話題となっている京都議定書である)。Conventionは条約と訳されているが,辞書には「協定,協約,約定,申し合わせ」などの訳語が見える。
 たばこは国際的な商品の一つであり,しかもアメリカ,イギリスおよび日本など,先進国における少数の世界的たばこ産業による銘柄が開発途上国を含む全世界に普及している。特にアメリカのたばこ産業は巨大な販売促進政策によって世界中に進出しており,開発途上国でのたばこ政策にも介入することが多い。
 このたばこに対する対策はWHOにとって最重要課題のひとつであり,しばしば世界各国に向けて勧告を行ってきたが,耳を傾ける国は多くないのが現状である。
 また,たばこ税が比較的安い日本では問題になっていないようであるが,国際的には,たばこ税の安い国から高い国への密輸が行われている。たとえば,カナダでは1990年代はじめまでは次第に税率を高めたが,そのために米国からの密輸が増加した。そのため,カナダでは税率を下げざるを得なくなった。このようなことを防ぐには,条約によってたばこに対する関税や国内税の国際的バランスを図る必要がある。
 現在この枠組条約についての政府間交渉が行われており,第6回政府間交渉議長案は,前文および11章38条に及ぶもので,価格政策,受動喫煙の防護,たばこ製品の包装およびラベリング,教育,販売促進,未成年者への販売,たばこ耕作補助金,環境保護,製造物責任,科学技術的協力など広範囲にわたっている。
 この枠組条約の前文では,その必要性を次のように述べている(仲野暢子訳)。


締約各国は,
たばこによる疫病の蔓延が世界的問題であり,可能な限り広い国際的協力と,すべての国が効果的,適切かつ協調的な形で参加することが必要であることを認識し,
たばこ消費と受動喫煙がもたらす健康・環境・経済への破壊的影響について,国際社会の深い関心を反映し,
たばこ生産と消費が世界的に増加し,開発途上国において健康と経済の重荷になっていることに深刻な関心を寄せ,
たばこ消費と受動喫煙が膨大な死と疾病と障害を引き起こすことが,科学的証拠に基づき明確に証明されていることを認識し,
シガレットが高度な技術によって依存性を作り,維持すべく製造され,含有物の多くは薬理活性,毒性,突然変異源性を持つこと,および「たばこ依存」が国際疾病分類で,独立した疾病として分類されていることを認識し,
子どもと若者の間に喫煙がエスカレートしていることを深刻に憂慮し,
喫煙およびその他の形のたばこ摂取が女性と少女の間で広がっていることに危急を感じ,ジェンダーに留意したたばこ対策の必要性と,女性のポリシー決定参加の必要性に留意し,
先住民の間で喫煙および他の形態のたばこ消費が広がっていることに深い関心を寄せ,
あらゆる形のたばこ宣伝・広告,市場調査,販売促進その他,たばこ使用を促進する目的の行為を憂慮し,
密輸その他の不法なたばこ取引の根絶に協力的な対処が必要なことを認識し,
たばこによって引き起こされる疾病その他の重荷に比して,どのレベルのたばこ対策の実行についても,財源が極めて少ないことを認め,新たな財源がこの世界的な疫病の影響を減らすことができることを知り,
たばこ需要の低減のために長期間にわたり社会的経済的措置が必要であり,
とくにたばこ生産に国の経済がかかっている開発途上国において,たばこ対策がもたらす社会的経済的困難を乗り越え,持続可能な発展をひらくよう,またたばこへの経済的依存性を低減するための援助を考慮し,
WHOにおいて指導的立場に立つ多くの国々の,たばこ規制の発展に対する貴重な実績および,他の国連組織,国際,地域組織の尽力に顧慮し,
多くのNGO組織,医療・衛生その他の専門組織,女性・青年・環境・消費者グループ,市民グループの国際的国内的協力がたばこ対策に大きく寄与することを強調し,
1996年国連総会において採択された「すべての人が,到達しえる最高水準の身体的精神的健康を享受する権利」を保障する"International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights"第12条を想起し,
WHO憲章前文の健康権を想起し,
あらゆる形態の女性差別撤廃条約,子どもの権利憲章を想起し,
最新,最高の科学的・技術的知見に基づき,持続可能な発展を考慮に入れ,
以下の合意に至った。


 また,条文の1例を挙げれば,「第11条たばこ製品の包装およびラベリング」では,「"low tar","light","ultra-light","mild"といった用語を用いないこと」が明記されている。これはEU(ヨーロッパ連合)でのたばこ対策ではすでに決められていることであり,日本のJTは反対をしている。
 この枠組条約案の交渉においては,日本政府は世界最大のたばこ輸出国である米国やドイツとともに抵抗しており,国際的な不評を買っていることが報じられている。
 この「たばこ対策枠組条約」第6回政府間交渉議長案の全文はhttp://www.who.int/gb/fctc/PDF/inb6/einb62.pdfで読むことができる。