古典的な疫学は疾患単位で成り立っていた。感染症の疫学,循環器疾患の疫学,がんの疫学,難病の疫学などが中心であり,理論疫学という方法論に着目した疫学もあった程度である。しかし,最近は「栄養疫学」をはじめ,「分子疫学」,「民族疫学」,「臨床疫学」など,疾患以外の研究方法,研究対象,研究の場を切り口とした新しいカテゴリーの疫学が続出している。しかし,冷静に考えると,栄養疫学にしろ,分子疫学にしろ,民族疫学にしろ,栄養学,分子生物学,民族学の切り口で,何らかの疾患を対象にしていると考えられる。栄養疫学領域では多くの研究者がFood Frequency Questionnaire (FFQ),半定量法,秤量法,陰膳法などによる食品,栄養摂取量の比較,再現性,妥当性などを検討している。坪野先生はその一人である。栄養摂取の測定法を固めた上で,栄養摂取と各種の疾患の関係を調べるのが栄養疫学の最終目標であろう。
筆者も30数年前(1963−1967年頃),栄養を切り口として循環器疾患の疫学的研究に取り組んでいた。ちなみに,学位論文のテーマは「日本人の脳卒中の成因における脂質代謝異常の役割」であった。研究内容は地域住民や脳卒中患者,心筋梗塞患者などの血清総コレステロール値,血清トリグリセライド値などを調べたもので,日本人の脳卒中の成因には脂質代謝異常は関与していないというのが結論であった。