研究班紹介

日本人の循環器疾患発症リスクと
リスク因子の影響を定量的に評価


大阪府立健康科学センター健康度測定部部長 内藤 義彦


 昨秋以来,メールやインターネット上の無料イントラネットを利用し連絡を取り合うとともに,ほぼ月に1回,土曜日に東京の基金事務所に集まり,朝から夕方までかなりマニアックな議論を重ねてきました。メンバーは皆,身体活動に関してユニークな研究歴とこだわりがあり,なおかつ身体活動量の把握について特別の情熱を感じながらも,ある意味で既存の枠内で勉強する限界を感じていましたので,このワーキンググループは「渡りに船」,相談する相手と中身の濃い情報に飢えた者にとっては,格好の語らいの場になっています。


 前例のないスピードで超高齢社会を迎えるわが国において,痴呆,寝たきり等による要介護者の増加が危惧されています。この要介護状態は動脈硬化性疾患に起因するところが大きく,公益信託日本動脈硬化予防研究基金(以下,基金)では,動脈硬化性疾患予防を目的とした臨床および疫学研究を助成し,中でもわが国においてこれまで各地で行われてきた循環器疾患に関する疫学研究を統合することを重視しています。つまり,標準化された評価方法のもとに全国各地のコホートの個人データをメタアナリシスの手法で統計的に統合し,日本人の循環器疾患発症リスクとリスク因子の影響を定量的に評価しようというものです。

動脈硬化に関する疫学・予防医学研究者の連帯強化を期待

 複数の研究グループによる疫学共同研究は,INTERSALTやINTERMAPといった標準化を徹底した共通プロトコルによる研究と,異なる対象に対して行われた研究をメタアナリシスの手法で統合する研究に分けられますが,基金の統合研究は両者の中間(個別データのメタアナリシスあるいはpooled analysis)といえます。共同研究により,単独コホートでは困難な,性・年齢別の疾患発症率あるいはリスク因子の影響に関する精度の高い推定,コホートとの交互作用(効果の一様性)の検討などを行うことが予定されています。また,この統合研究を通じて,動脈硬化に関する疫学・予防医学の研究者の連帯と組織強化および人材の育成も期待されています(小生はこれが最も意義深いと考えています)。

既観察イベント統合する0次研究と調査方法標準化し前向きに追跡する本研究

 統合研究は,既存コホートの既観察イベントを統合する0次研究と,調査方法を標準化し前向きに追跡する本研究(こちらを主に統合研究と呼んでいます)に分けられます。0次研究については平成14年内に,本研究については平成15年末の登録完了をめざしており,(標準化項目に関して合意を形成する会議などを経て,)平成13年11月下旬に統合研究委員会が発足しました。その下部組織として栄養と運動(身体活動量)に関するワーキンググループ(以下,WG)が別途編成され,WGが中心となってそれぞれ担当する要因の評価方法の試案と妥当性研究の計画を立案しました。

ユニークな研究歴持つメンバーにWGは「渡りに船」

 小生は,身体活動WGのリーダーに命ぜられたわけですが,メンバーは小生も含めて目下6名,常勤?メンバーは東京大学の原田亜紀子氏,東京医大の井上茂氏,明治生命体力医学研究所の北畠義典氏です。荒尾孝先生(明治生命体力医学研究所)と大橋靖雄先生(東京大学)には顧問的立場で,とくに重要な集まりの時に参加していただき,計画遂行のための助言や支援をお願いしています。昨秋以来,メールやインターネット上の無料イントラネットを利用し連絡を取り合うとともに,ほぼ月に1回(最近は業務多忙のため,若干少なくなっていますが),土曜日に東京の基金事務所に集まり,朝から夕方までかなりマニアックな議論を重ねてきました。メンバーは皆,身体活動に関してユニークな研究歴とこだわりがあり,なおかつ身体活動量の把握について特別の情熱を感じながらも,ある意味で既存の枠内で勉強する限界を感じていましたので,このWGは,「渡りに船」,相談する相手と中身の濃い情報に飢えた者にとっては,格好の語らいの場になっています。小生も,メンバーと会って色々と議論するのが楽しみで,年齢差をすこし感じますが,同好会のような気兼ねのない雰囲気でやっています。メールや電話などで代用できないかと思われる方もあるでしょうが,やはり直に会って議論してこそ,得られる収穫と楽しみがあるような気がしてなりません。また,詳しい情報を知っている人に会うともっと勉強しなくてはという意欲が高まるのも効用です。

加速度計に着目! 統合研究用に独自の解析システムを開発中

 具体的な議論の中身は,1)身体活動量把握方法を共通化および標準化する,2)既存の身体活動量把握方法の外的妥当性を検証する,3)身体活動量把握のための新たな質問紙の開発と妥当性を検証することで,わが国の実情にあった身体活動評価方法を確立するため,現在,いくつかの異なる方法を組み合わせた妥当性研究を企画しています。妥当性が検証されたのち,これらの方法を用いた調査を実施し,慢性疾患のリスクファクターとしての身体活動量の意義に関する検討,および多様な集団間で身体活動量の比較などを行う予定です。今後の疫学研究では,疾患発症や死亡と身体活動量との関連に関して,活動の質的内容,量反応関係,効果に対する身体活動量の閾値の有無などが注目されていくと考えられます。身体活動に関する大規模疫学研究が多数行われている米国では,身体活動量の構成要素である"時間","強度","頻度"に基づく定量化の必要性が益々強調されており,わが国でもそのような身体活動質問紙を用いた検討が必要と考えられます。統合研究で用いる調査方法は,(1) 24時間活動記録,(2) 7 day recall,(3) 簡易質問紙,(4) 加速度計などを予定しております。詳細な説明は割愛しますが,調査票による身体活動量の検討では主観的判断に基づくbiasがどうしても避けられないことから,客観的に身体活動量を測定できる指標のひとつとして,加速度計に着目しています。なお,この加速度計に関しましては統合研究用に独自の解析システムを開発中であり,広く疫学研究用に利用できるようになるものと勝手に夢を描いています。乞うご期待!?