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日本疫学会 「疫学研究を実施するにあたっての倫理宣言」

2002年1月25日

 今日に至るまで疫学研究は、健康の増進、疾病の予防、寿命の延長、生活の質の向上などを通じて、人類の福利厚生の向上を目指して実施されてきた。結核をはじめとする感染症対策、がんや循環器疾患などの慢性疾患の予防、難病対策、環境問題など、わが国においても多くの面で社会的貢献をしてきたことは、周知の事実である。そして、これらの疫学研究の多くは、その時代に則した方法で対象者の人権を最大限に尊重して実施されてきている。
 今後とも、疫学研究を遂行するにあたり、対象者の人権を保護するなど、倫理面に十分配慮した研究の必要性は、改めて指摘するまでもない。しかしながら、昨今のプライバシーの権利に関する意識の向上や、個人情報保護の社会的動向などに鑑み、日本疫学会として疫学研究の倫理原則を提示しておくことは、今後の疫学研究を円滑に遂行するために必要なことと判断した。
日本疫学会会員は疫学研究を遂行するにあたり、次の5項目を遵守することを、ここに再確認する。

1. 真理の追究を目的とした研究であること
 
  疫学研究は他の学術研究と同様に、真理追究を目的としたものである。また、疫学研究は人類の福利厚生の向上に資するべきである。

2. 対象者の人権を尊重した研究であること
 
  疫学研究の対象は人であり、個々の対象者の人権を尊重した研究を行う必要がある。そのためには、(1)可能な限り対象者のインフォームド・コンセントを得ること、(2)個人情報の保護に万全を期すること、(3)計画段階で倫理審査委員会など第三者の評価を受けること、などが重要となる。

3. 目的を達成するために最も適切な方法を用いた研究であること
 
  疫学研究が当初の目的を達成するために、方法と得られる結果の重要性を比較衡量して、研究実施時点の知見に照らし合わせて最も合理的な方法を採用するべきである。また、対象者の健康を損なうことがないよう、研究方法は安全性に十分配慮したものとする。

4. 社会規範に反しない研究であること
 
  重要な社会規範である法律を遵守した研究を実施するべきである。生命倫理に反する研究も認められない。また、既存の医学研究や疫学研究を遂行するにあたっての規範を最大限に尊重する必要がある。

5. 常に社会に開かれた研究であること
 
  以上の点が勘案された上で研究が実施されているかどうかの評価を、社会から受けることが出来るようにする。そのためには、研究の内容や結果の公表などを通じて、常に社会に対して責任を持って研究を公開するように、努める必要がある。

以上

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