ご挨拶

第29回日本疫学会学術総会会長

国立がん研究センター社会と健康研究センター

センター長 津金昌一郎


第29回日本疫学会学術総会開催にあたって

第29回日本疫学会学術総会を2019年1月30日から2月1日にかけて、国立がん研究センター築地キャンパス(東京都中央区)および一橋大学一橋講堂(東京都千代田区)において開催させて頂くことになりました。学会長として一言ご挨拶申し上げます。

本学術総会のテーマとしては、いろいろと悩んだ末に「疫学の本質:限界への挑戦」 The Nature of Epidemiology - Challenging the Limitsと致しました。

疫学研究は、病気の原因究明のための方法論として発展してきましたが、一つの原因では説明出来ない非感染性疾患などを扱うようになってきて、様々な限界に直面するようになりました。また、21世紀に入って、情報や分析など技術の飛躍的進歩により、疫学研究は多様化し、同時に、研究に利用出来るデータは質・量ともに格段に増えビックデータ時代と言われるようになりました。一方で、個人情報保護法や研究倫理指針などによる規制も厳しくなっていることもあり、ややもすれば安易な疫学研究が横行するきらいがあります。

疫学研究で示される要因と病気との“関連”は、その分かりやすさも手伝い社会の耳目をひきます。しかしながら、“因果関係“を担保し得ないことへの批判にさらされ、偶然・バイアス・交絡を否定するための対応が求められています。疫学研究の一つでもあるランダム化比較試験で得られた結果が、因果関係において最も信頼性が高いエビデンスを提示しますが、人を対象としているために検証出来る仮説は限られ、容易には行いえないという側面もあります。

このような昨今の状況の中で、改めて、従来の疫学の方法論を見直すと共に、疫学研究の宿命である限界を克服するための新たな方法論(例えば、メカニズムの実証から因果関係を補強する分子疫学研究や未観察の交絡要因の調整を試みるメンデリアン・ランダマイゼーション法など)について議論する機会にしたいと考えて、このテーマを選びました。疫学研究者は、単なる統計学的な関連を示せば良いのではなく、因果関係を追及し、疾病予防・健康増進のための確かな方法を提示する責任があり、更には、それを効果的に社会に普及・実装する方法を示すことも求められていると考えています。

そのような意味で、多民族を対象としたコホート研究などを用いて、大腸がんの遺伝環境交互作用をはじめとする分子疫学研究に関して顕著な成果を挙げているハワイ大学のLoic Le Marchand教授を基調講演に迎え、関連のシンポジウムを企画してみました。また、疫学セミナーとしては、確かな予防法を社会に普及・実装する研究(Dissemination and Implementation Science)をテーマにしてみました。

疫学研究が社会において益々その存在感を示せるように発展して行くことを願いつつ、本学術総会へのひとりでも多くの皆様の参加をお待ち申し上げます。

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