Journal of Epidemiology

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日本語抄録

 

Vol.19-5

日本人におけるアルコールとアルコール代謝酵素遺伝子多型の女性乳がんに対する影響

川瀬孝和(愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部)、松尾恵太郎、平木章夫、鈴木勇史、渡邉美貴、岩田広治、田中英夫、田島和雄

【背景】多くの疫学研究で一貫して、アルコール飲料が女性乳がんの独立した危険因子である事が示されている。この効果の機序は不明であるが、有力な仮説としてエタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドによる発がんが考えられている。種々のがんの発がんにおけるアセトアルデヒドの影響は、実験モデルと分子疫学研究の両面で示されてきた。alcohol dehydrogenase 1B (ADH1B) His48Arg と aldehyde dehydrogenase 2 (ALDH2) Glu504Lysの遺伝子多型がアセトアルデヒドへの暴露と蓄積に強い影響をもつ事を背景に、多くの疫学研究においてADH1BとALDH2の多型が研究されてきた。しかしながら乳がんに関してのエビデンスは少ない。
【方法】アルコール代謝酵素であるADH1BとALDH2遺伝子の多型とアルコール摂取の女性乳がんに対する影響を明らかにするために、我々は新規に組織学的に乳がんと診断された456人の患者と、年齢、閉経状況を適合させた912人の非がん対照による症例対照研究を施行した。ADH1BとALDH2遺伝子多型とアルコール摂取おのおのとこれらの組合せでの遺伝子交互作用と遺伝子環境交互作用を評価した。
【結果】十分な検定力を有する解析であったにもかかわらず、ADH1BとALDH2遺伝子多型は乳がんリスクに有意な影響はなく、ADH1BとALDH2遺伝子多型とアルコール摂取の間に有意な遺伝子環境交互作用をみとめなかった。
【考察】これらの知見はアセトアルデヒドが、アルコールを誘因とする乳がんの発がんメカニズムの主要因であるという仮説を支持しなかった。
乳がん、アルコール代謝酵素遺伝子多型、症例対照研究
P244~250

日本人高齢者における可視的皮膚エイジングとそれに関連するライフスタイル要因

朝倉敬子(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学)、西脇祐司、石上愛、道川武紘、中野真規子、岩澤聡子、Greg Hillebrand、宮本久喜三、小野雅司、金城芳秀、秋葉澄伯、武林亨

高齢者の顔面皮膚エイジングについて、客観的かつ定量的な方法で評価を行った研究はきわめて限定的であり、特に日本ではそうである。よって本時間断面研究においては、65歳以上の日本人高齢者を対象とし、顔面皮膚の状態(色素沈着、毛穴、肌のきめ、しわ)について客観的かつ定量的な画像を用いた手法によって評価することを目的とした。さらに、これらの可視的な皮膚エイジング指標と関連するライフスタイル要因を明らかにすることを試みた。研究対象は、人口約4800人の群馬県高崎市倉渕町に住む65歳以上の地域在住高齢者802名である。被検者の顔面皮膚の状態は、標準化された画像撮影システムとそれに引き続くコンピューターを用いた画像解析によって定量的に評価された。ライフスタイル要因は構造化質問票を用いて調査した。皮膚の状態とライフスタイル要因との関連は、重回帰分析を用いて検討した。女性は、同じ年齢の男性と比較して、肌のきめ、色素沈着、毛穴の3つのエイジング指標の平均値がいずれも低かった。顔面のしわの程度は、男女間で差がなかった。加齢は、女性においてのみ皮膚状態の悪化と関連していた。年齢を調整すると、喫煙状態と日焼け止めの外用が男女双方において皮膚の状態と関連していた。本研究により、色素沈着、肌のきめ、毛穴については男女間でエイジングの程度に差があるものの、しわについては男女差がないことが示唆された。さらに本研究集団においては、喫煙状態と日焼け止めの外用が、可視的な皮膚エイジング指標と有意に関連していることが示唆された。
皮膚エイジング、定量的手法、日本、高齢者、ライフスタイル
P251~259

 
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