理事長挨拶

理事長挨拶

法人化後の日本疫学会 ―「人-疫学-人」の結びつきを世界へ

理事長挨拶

第9代日本疫学会理事長
大阪大学医学系研究科社会環境医学講座公衆衛生学教授
磯 博康

日本疫学会は、平成27年12月に一般社団法人日本疫学会として法人化されました。今後は国内で他学会との連携、疫学専門家等の人材育成、一般の方々への情報提供等の新しい活動を積極的に推進して、わが国の疫学のさらなる発展に貢献するとともに、学会の顔である「Journal of Epidemiology」の充実、海外会員の増加を進め、アジアのリーダーとして国際化を進めて参ります。

疫学は「人の集団での健康事象の多寡を観察し、その発生要因、促進・抑制要因を分析し、これらの因子に介入することで健康問題の解決を図る学問、そのための方法論を提供し、実践に結びつける学問」であり、「ポピュレーション・サイエンス」と呼ばれるものです。 すなわち、人の集団を対象として、多くの人によって支えられ、進めることのできる学問であり、2013年の理事長就任時に「人-疫学-人」の重要性を挙げさせていただきました。その精神は今後も変わりありません。

2016年1月1日の会員数は1,934人で、1991年学会発足当時の243人に比べて8倍となりました。その間、多くの諸先輩の先生方のご尽力により、学問としての疫学の重要性が、臨床医学、薬学、看護学等の他の学問分野でも認知されつつあります。今後ともさらに学問としての疫学のステータスを高め、他の分野の研究者、実践家、一般の方々にその意義の理解を深めていただく必要があります。そのため、広報活動や、セミナー等の研修活動をさらに強化するとともに、自由闊達な議論の場である「若手の集い」活動のさらなる支援、他分野の学会との共催を介した交流を進めます。さらに学会誌「Journal of Epidemiology」は、2014年のインパクトファクターが3.022と疫学の学術誌として世界トップ10入りを果たしました。今後さらに魅力的な学術雑誌とするため、編集・出版業務の拡充、編集委員・査読委員の国際化を進めていく所存です。

もう一つ会員の皆さんや、疫学に興味を持たれている皆さんへのメッセージとして、「東洋の知」があります。少子化・高齢化に伴う様々な健康問題は、日本のみならず世界的な課題ですが、これらの健康問題は今後益々複雑化・多様化するため、その対処には、疫学の知識、技術、経験を有する人材の育成の重要性がこれまで以上に大きくなっています。その際、「西洋の知」のみでは世界規模の健康問題に十分に対処することは難しく、「東洋の知」をより積極的に活用してゆく必要があります。西洋の知は、個々の分析力に卓越したものがありますが、東洋の知には、協調、統合、継続、循環の概念に基づいた包括力に強みがあります。日本がアジアのリーダーとして様々な分野での活躍が期待されている事情を鑑みますと、疫学分野において私たちには「東洋の知」を有する強みとそれを活用できる立場にあります。日本の歴史を振り返りますと、中国、韓国等から当時の先進的な文化、経済、政治そして学問が日本にもたらされました。日本の疫学はアジアにおいて先進的に、環境汚染、感染症、慢性疾患、精神疾患等の問題に対処し、環境衛生、産業保健、母子保健、学校保健、成人・老人保健、精神保健等の分野での多くの実績を有しています。そして、現在、少子超高齢化社会のフロントランナーとして、今後どのように健康問題に対処してゆくかが、多くのアジア諸国から注目されています。この問題解決の道は決して平坦ではありませんが、健康問題に対処する「東洋の知」を発展、普及させることは、本学会の使命の一つです。

その意味でも、そして「人‐疫学‐人」を広げる意味でも、疫学の研究者はもとより、臨床医師、行政医師、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師、栄養士、理学療法士、作業療法士、心理士、社会科学等の研究者、実務家や健康関連分野の活動に携わる方々にも、本学会が貴重な交流の場となるよう、学会活動を充実してゆきたいと存じます。本学会に興味のある方の積極的な参加を期待します。

法人化後の日本疫学会の益々の発展のため、会員、代議員、理事・監事、名誉会員の皆様、学会活動へのご参加、ご支援、ご助言をよろしくお願い申し上げます。

                                         平成28年2月